「ねぇ飛刀。僕、すこしはつよくなれたのかな…」
僕はほんの少しだけ、背伸びをしたんだとおもう。
たしかずーっと前、ずっと昔、天化兄さまが一回だけ僕にきいたんだ。
「俺っちが越えてぇ目標は親父。俺っちが護りてぇのも親父だし──まぁ天禄兄貴も天爵もさ。」
けど、天祥はどうなのさ?って、振り向かずに笑った兄さまに、僕はあしがカタカタ言った。
頭のなかがぼんやりして、叫ばなくちゃならないことと、叫びたいことと、叫んじゃならないことが一編に僕に命令するんだ。
だから僕には難しくって、
「僕はねぇ、天禄兄さまと天爵兄さまだよっ!だっておとーさんは僕よりずっと強いもん…」
はじめて、えがおって難しいんだって知ったんだ。
「はは、そりゃーそうさ。天祥はしっかりしてんなぁ」
振り返らない兄さまの煙草の臭いが乱暴で、僕はちょっとだけ息がくるしい。
「ナタク兄ちゃんは強いし優しいし飛べるしはやーいし!雷震子兄ちゃんの翼もカッコイーし、弟みたいだってゆってくれたんだ!」
だから、だから僕は苦しくて、
「だからナタク兄ちゃんと雷震子兄ちゃんも、まもるひと、じゃないよね?」
うまく言葉を言えなかったの。兄さまがなんで煙草の火を消しちゃったのかとか、飛刀が静かにしてるのかとか、……おとうさんがいなくなっちゃったときぐらい、寂しいざわざわが胸に攻めてきていることとか、考えても考えても難しくって、だから、僕は笑ったんだ。
「おっ、いーい笑顔さ、天祥!かっけー男になるのも時間の問題さ!!」
兄さまに頭をぐしゃぐしゃされて、笑いながら僕はおもう。──いつもよりぐしゃぐしゃだって。
いつもの頭のぐしゃぐしゃは、心がふわふわするぐしゃぐしゃなのに、今日は──言っちゃいけない、言葉が、あるんだよね?
だから僕は笑って言ったの。
「せんそーが終わったら、兄さまと本気で手合わせしたいな」
煙草に一本火をつけて、兄さまはくいっと口で笑って、僕の頭から手を離しちゃった。
わかってたんだ。
わかってたんだよ。
あの日誰よりも護りたかった人、叫びたかったこと。きっと兄さまと同じだったから言えなかったんだね。
「ねぇ飛刀。俺、随分強くなったよな?」
"天化兄さまを、護りたい"
だから、だからどうか、天化兄さまが命をかけて護ったあの人と誇りを、ずっと僕に護らせて。
それが僕の──
end.
似た者同士の存在理由
WS封神の武成王になる天祥のアイデンティティー。
2012/04/06