ring




おめでたい言葉が飛び交う場所から離れた昼下がり、虹に飛ぶ白い鳩。俺っちの思考も遠くに飛び立ったままだった。
見慣れたハズの女の髪が、いつものあの飛び跳ねて編んでるヘンなのじゃないだけで、それだけでなんか変わるって。……そんなもんなんかね。
「似合ってねぇさ、変わんない」
「そうか?俺は最初っからくっつくだろうと思ってたねー」
――ああ、初めて会った頃。いや、俺っちが言ってるのってモグラのことじゃなくて。……ま、いいさ。
「へーえ。王サマの第六感?」
「六感ってか、確信。」
「珍しいこともあるもんさ」
「ああ?いやよ、あいつ女相手に強気に出られないだろ…」
「そうかね」
王サマもじゃん、とは言わないどくけど。右隣から欠伸と混じった声がした。昨日までかなり伸びてたヒゲはもうない。流石にありゃ怒られるさね、当人たちじゃなくて親戚一同とか。ま、今更気にする様な間柄じゃねぇから、俺っちもネクタイ黒で来ちまったし楊ゼンさん白タキシードだし。いろいろヘンだけどさ。

白い壁と赤い絨毯、四季も飛び越した色とりどりの花が降っていた。
「追われる恋って、結局蝉玉が最初で最後だったわけだろ?」
「始まったさナンパ解説」
「まぁそりゃ伊達につるんでないし」
ああ、ビンタされまくってたっけ。王サマとモグラは大抵そうだった。女追っかけ回して走り回ってビンタ張られて、"見上げたバカさ"って言ったら、"お前ベタ惚れだもんな"って言われて笑われた。
誰が誰にさ?
意味がわかんないような素振りの、俺っちの首の傾け方でどうやらその人は"確信"したらしかった。
俺っちが蝉玉にってさ。
王サマの顔に手形が増えた。精一杯の見栄と虚勢だったって今にして思う。因みにパーなワケない、……手加減はしたけど。

それがもう、…あり?9…10年…11年前?

「早いよな、十年一昔ってか」
「親父くせぇべそりゃ」
「だってよ…」

親父にもなるよなぁ、なんて遠い声がした右隣。見てないけどわかる。今は10年前より少し進んだ近視と太陽に目を細めて、あと5秒しないうちに伸びでもするんじゃねぇさ?
「っ、あ゙ーーー」
「ほらやっぱ」
「……あ?」
「なんでもないさ」
隣で変わる空気の緩やかな隆起は、腕で描いた弓の形。唇の動きも、その周りの今は剃った髭も明日の無精髭予備軍も、昔は一個出来たニキビ気にしてた場所に、
「ってか引き出物」
「ああ」
初めて触ったのは、あのグー換算しなけりゃ半年ぐらい後。それより数秒先にこの人の指が俺っちの耳と肩に触れたっけ。
「あれって」
「悪趣味さー、随分」
逆さの桃に新郎新婦の写真入りのパンのベッドが紙袋で重みを増した昼下がり。
「飾るのも食べんのも困るさね」
「俺らもうちょい趣味いいもんな」
「ああ、そりゃー蝉玉は昔っから変な」
「俺と天化。」
「へ?」
「なんにする?パーッと景気良くかますかよ?愛の祈念だし?」

ニッ、て笑う歯が見えた。ああ、あのときも。
"お前ベタ惚れだもんな"って言いながらこんな顔をしてた、この人は、この人が――

「きゃあぁぁぁ!!」

似合わない懐かしい香りに指伸ばしたらさ、すげぇ悲鳴と甘い香りが…

「…ッ、なんさコ…」
「サイッテー!馬鹿じゃない!天化が取ってどうするのよー!」
「そっちが勝手に投げ…」

左手に、花束。花束?

走りよる女がたくさん見えた。今日ばかりはあの髪を下ろして違う形にくくったその、俺っちの初恋が……、やーっぱ変わってねぇさ!力任せに投げる癖!

「空気読めよ!」
「どっちが!」
揉みくちゃな俺っちと群がる女の罵倒コールに、王サマの茶々入れる声が懐かしく響いた最中。

「結婚しよう」

花束のレースを掻き分けた唇が、左の手の甲にそう言った。

「……そこじゃなくて」
「"俺っちに"ね」

結婚しよう。結婚しよう。

絡まった視線と指とリボンとレースに、花の色。
えーと。えーと……声が出ねぇ。今更さ、なにがどうして俺っちと王サマで、誰と誰の結婚式で、誰と誰が?

「人の式でってルール違反!」

今日ばかりはいろいろ揉みくちゃにしか聞こえない俺っちにもそう聞こえた。
そりゃわかってっけど。ごめん、でも
「そこかい!」
男二人じゃん、俺っちも王サマも!突っ込み所なんかズレてるさ!
「ほんっとアンタたちって昔から…」
今更すぎる違和感はこの仲間ん中じゃとっくに当たり前だったみたいで、争奪戦のドーナツの中で笑い合った。

舞い散る鳩の羽根にくすぐられながら。うわ、――幸せってくすぐってぇさ。


end.


いつまでも変わらない迷惑バカップル。
川本真琴/ドーナッツのリングと桜を聴きながら。
2011/04/22
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