ポッキーゲーム




ちょっとからかってやろうと思った。

適度、かどーか計りかねる酒も入った団体密室カラオケ。飲めや歌えやドンチャン騒ぎで、隣でちびちび飲んでた天化もいつの間にやらガンガン空ける。煙草吸ってる暇もなし、ね。歌いたがる訳でもない。手拍子だけしてるけど、灰皿に溜まった吸殻の数が20分前から変わってない。

「ポッキーゲームやる奴!」

太公望の「北酒場」も聞き飽きた連中の目が、一斉に向いた。どっちも古いってのは言いっこなしだ。
「ハニー!立候補!」
潰れかかってる土公孫の首引っ張りながら、最初にかかったのは案の定蝉玉。
「やるって言って、ね…ぐぇっ!」
「絶対ラブラブ優勝よ!」
「……優勝?」
蝉玉、恩に着る!その単語で見事天化が釣れた。


二人の場合のポッキーゲーム。
両端から食べ始める。唇離したり折ったりした時点で負け。最後まで進めばキス。

複数組の場合のポッキーゲーム。
二人一組チーム制。目隠しつきで、終了時のポッキーが一番短いチームが勝ち。折ったら負け。キスしたら負け。

それだけの単純明快ラブゲーム。因みに今回はチーム制。じゃないとのっからねぇからなー天化。
結果なんて負けがいい。からかってみたいっつーか、ただ理由くっつけてキスしたい。キスが出来ない間柄じゃない。むしろそれ以上。
アルコールの分量の割には酔ってない顔。でも普段よりゃ赤い、若干のエロさ含有。
それ見たらふと浮かんだ。

ここで見せ付けてキスしてやったらどんな顔すんだろうなーって。巻き起こるキスコールに、コイツは違う闘志燃やしてるみたいだけど。

集まったのは太公望&普賢、蝉玉&土公孫、俺と天化。レフェリーに楊ゼン。

「いくぞー!ポッキー…」

……ん?ポッキー?

「おい、さっきポッキーあったよな!?」

確かに注文してた特大パーティー用ポッキーの影がない。どこにもない。
「「「……天祥!?」」」
思いっきりハモった。
あ゙ー!失敗だ!謀反だ…!
時間も時間で、流石に気まずくて先に返した天祥と送ってった武成王。絶対そうに決まってる…ポッキーが刺さってたグラスごとない。
「もっかい注文…」
「今日はポッキー品切れだそうでーすっ!」
電話片手に武吉っちゃん。誰だそんなに食ったヤツ!
「じゃあポテトでいーだろ!」
「ダメです武王!フライドポテトは長さが違います!公正さに欠けるでしょう」
覚えてろ酔っ払い楊ゼン…!
「小兄、楊ゼン殿、野菜スティックならある程度の公正が保てるかと」
「旦、お前たまには良いこと言…」
「嫌じゃ!苦い!」
「太公望ー!」
くそ!ワガママジジイー!
「いいだろ野菜で!生臭じゃねぇんだし!!」
「嫌じゃ!セロリは食わぬー!」
「マヨネーズかけろ!」
「望ちゃん、落雁」
おおおおおおおい!それはあんまりだ!
「つぶつぶイチゴポッキーでしょ!?」
蝉玉め…がー!寝てんじゃねぇ土公孫!
「落雁はすぐ溶けるではないか」
「じゃあ芋ようかんがあるよ。ういろうは?」
ドコに持ってんだドコに!
「芋は嫌じゃ!栗ようかん派として譲れぬよ」
「嫌よ!私つぶ餡きらい!」
「望ちゃん、品川巻き」
「ゴマ団子はないのか」
もう頼むから黙ってろジジイ連中!
「フランクフルトならあるそうでーすっ!」
「武吉っちゃん!ナイス!」
「串はどうします?」
「団子の串?フランクフルトの串?」

「俺っちポッキー買ってくるさ!」

おおおおッオイイイイイイイイイ!

引きとめようとしたが最後、電光石火で消えてった。
うそだろ、おい。忘れてた…そーゆーヤツだよな、お前…。
大量に届けられるフランクフルトに、他意なく笑う武吉っちゃん。広がったゴマ団子。腹膨らます連中。他意膨れっぱなしの俺。忘れ去ってるだろ…ちくしょう!また「北酒場」!!
もう太公望名前で領収書切ってやろう。蹴って出てったドアの横から聞こえる「さらば恋人よ」。シャレになってねぇよ!酔いも一気に冷めた。

一向に帰ってこない天化。あの馬鹿、何処まで買いに行ったんだか…下手したら隣街でも走ってくんだろう。その辺計りかねる。
カラオケの外は寝静まった冬の夜。何処の店だ?この辺の片っ端から行くしかねーか。

「あーあ…」
ばっかくせ。頭いてぇ。悪酔いした。曲がろうとした路地の角で脚が揺れる。地面が揺れる。左に曲がろうとして右に揺れる。
「…天」
言い終わる前に引っ張られた肘と路地裏の細い道。覚えありすぎる赤い顔。
「……そーゆーの、二人だけのときにしてくんないと困るさ」
野良猫か、お前。いつから感づいたんだか。

「あーあ、ばかくせーほんっと…」

ちょっとからかってやろうと思ったソイツが、腕の中で丸まってる。目だけ牽制しててもそーゆー顔してるっての。ポッキー探しが店探し経由して、ホテル探しに変わってく。
路地裏のゴミ箱の影から、ホンモノの黒猫が走って逃げてった。
あー、やっぱり誰にも見せてやんない。

end.
カラオケは太乙作。なのに出せなかった無念はいつか晴らします。
2010/11/07
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