朝と天化と杏酒!(*)




その日はうんと寒い日で、流石の俺っちも思わず身震い。隣じゃあ素っ裸の王サマがいびきかいて毛布を占領してっから、半分引っ張って横に潜ってやった。
へへ、護衛の特権さー!
ふんわり広がるのは王サマの白樺となんちゃらのお香の香りと、毛布のお天道サマ、二人で飲んだ酒の匂い。
王サマはジュースみたいな果実酒をちびちびペロペロ、俺っちは当然!男の証焼酎一気。浴びる程飲んで、最後に一口、王サマの唇に残った杏酒の香りがした。

"天化……"

まだ月が出てる時間。目を開けない王サマを見てたら、さっきまでいろいろ抱き合ってた汗の臭いや王サマの臭いも、えと…俺っちのそーゆーのも…全部混じって頭と胸に込み上げる。むず痒くってならなくて、王サマの胸に顔をくっつけた。

"天化、かわいい"

瞬間思い出す王サマの声。王サマの少し荒い息。王サマの汗が俺っちの胸に落ちるときのぞくぞくとか、恥ずかしくてやりきれないのに、妙な声が出ちまうのとかさ、

"なぁ、イク顔見せて、天化"

耳元であの逆らえない声がすることとか。……やばい。考えすぎたら腰っちゅーか、……もっと奥に王サマが入ってる感じがして、ざわざわ胸がうるさくて、頭まで毛布をひっ被った。あーもう!!こーゆーのは寝るに限るさ!

そんで実際結構眠れるモンらしい。
「……っン…」
もやもや薄明かりの夢の中で、俺っちはまた王サマに抱かれてた。柔らかくタマ握られちまうと、もう俺っちも我慢できなくなる。ひゃう…なんて裏返る気色悪い声が抑えらんなくなって――王サマはそれがいい、なんてアホを言う――、指がバラバラにのんびり動いて、胸を軽く吸われたのも。……夢の中でもエロいんかこの人……。
「天化……」
ホントのスケベは俺っちもなんかもしんねぇけど、腰がムズムズ止まんないから、たまらなくなって王サマの首に抱き付いて、
「……足りないさ、王サマ」
少し腰を擦り寄せてみる。恥ずかしくなって消えたくなって、なのに身体はカッカ熱くて、なんとかして欲しくて……!王サマは困ったような息を吐いていた。

「……天化、しようぜ」

……うん、うん。したいさ、すげぇしたいさ!王サマが欲しくて足んなくて、もっと触ってほしいトコがあるさ…!王サマ王サマ、王サマ!!

「――……王サマ!!」
「ん?」

へ?
「ん?どした?」
「ゆ、」
ゆ、ゆめ?夢っしょ?
じゃなきゃ俺っちはすげーひでぇこと言った気がする…。
何度まばたきしても、馬乗りんなってる王サマは確かに"王サマ"で、窓の外には昇りかけのお天道サマ。夢と同じ薄明かり。意味がわかんねぇうちに、王サマが触れるだけの口付けをした。
……ひゃーあー、やばい。俺っちの好きな口付けさ……。最初は触れるだけでもどかしくって、だんだん唇も舐められて、
「ふぁっ……」
そうなると止まらなくなっちまうのはいつも俺っちの悔しい役割だった。舌を伸ばすと、嬉しそうに絡み付いて、王サマはいつでもそんな口付けをくれる。
「んっ、ふ…は」
「そんなに言われたらすげ嬉しいんだけど、止まんないぜ?」
ちゅる、って、二人の唇が混ざる音。まだほのかに杏の味がした。
「いいの?」
「んっ…」
もう夢なんだか本当なんだか、俺っちの判断材料は残ってなかったみてぇさ。上顎に張り付く王サマの舌にゾクゾク、二人共裸だから、王サマの指に胸の先を引っ掛かれてビリビリ……さっきからそればっか。ああもう!それじゃあ、それじゃ……
「足りねぇ?天化」
促す王サマの意地悪い声が、ぺろって鎖骨にくっついた。
「……うん」
少し離れた王サマの頭を抱いて、胸をくすぐる舌にとろけそうになりながら、天井には陽射しの反射。ああ、やっぱり朝なんか。漆喰の王サマの寝室の窓枠が、でっかい影絵みたいに天井に揺れてる。王サマの前髪が首にチクチクさらさら、――……たまんないさ。
「今日は随分素直だな」
「王サマ……」
バレたみたい。もう我慢すんのがキツいくらい、硬くなっちゃってる俺っちの……。全身の汗が一気に吹き出て、腰が宙に浮いた気がした。
「あっ…王サマ…」
「……かーわいい、天化。天化の"ああん"ってすげぇクるんだぜ?」
んなこと知るかい!って、……言いたいのにまたあの妙な声しか出なかった。
「くはっ……」
わかんなくなるから先っぽはやめてって毎回言ってんのに!
"いいか?な、それはキモチイイってゆーんだぜ?"って。いつもそんな言葉でめちゃくちゃにされちまう。
「……あぁ、…あ」
王サマの人差し指につつかれて腰が跳ねて止まんねぇっ…
「あッ、ふぅ……ぁ!!あ!?」
「気持ちいい?」
耳元で、あの声がして、跳ねた腰と腹を抑えられて一気に身体中の血の気が引いた。
「なぁ、天化。声聞かせて」
止まらない指と声に、……そんなもんを出してる場合じゃない。俺っちは今、すごく、……――
「おっ…」
「かーわいい」
すごく、マジにおしっこに行きたい!ヤバイさ、まずい!マジにまずいべ!!なんでこんな急に子供みたいに……!!
「まって、王サマ待っ…」
笑う王サマの手のさざ波に遮られて言葉が出ない。

朝。
そうさ…、昨日飲んでいろいろ寝て、そのまま眠って朝なんか……!気付いたら余計切羽詰まって苦しくなった。
「王サマ!ちょ」
一晩溜めてた腹の中で、ぽっこり形がわかるくらいにやばいことになってて、押し返そうとした手も、王サマに引っ張られた。違うっちゅーのに!
「ひゃうぅ…ッ…!!」
その指の先に、王サマの舌が絡み付く。あああもう!だから、だから……!
「やめて…だめさ、王サ」
言いかけたのに、また口付けで塞がれた。ちくしょうぜってぇ通じてないさ……!
下敷きにされた腹の下で、溜まった水分が急落下してくのがわかる。やばい、まずい…さっきからこれしか考えられねぇ…!冷や汗が吹き出した。脚で抑えようとしてんのに、
「うぁぁっ…」
その前に王サマの手に陣取られた。上下に擦られっと一気にまた嫌な汗が吹き出して、突き飛ばしたいのに力が出ない。やばい、まずい、
「王サマ…!ぁっ、や…いやさ!ちょっと待っ、ぁあっ」
「どうしたんだよ、今日すげぇ可愛いのな…」
「ん゙!?」
だから違うっちゅーのに!そのまままた唇を塞がれて、喋る隙が何処にもなかった。胸を叩いても、火がついた王サマは鼻息荒く動かない。っとに思い込み激しいさこの王サマ…!!
王サマの右手に擦られる度に、もう出ちゃってるんじゃないかってぐらい怖い感覚が、無性に背中にゾクゾクくる……。なんて言ったらこの勘違いの人に通じるんだか、俺っちが必死に考えてる間も、王サマが"かわいい"って繰り返してて、恥ずかしさに消えちまいたくなった。

もれる…

その三文字ばっかが頭にチラついてぐるぐる回って、天井まで回って見えた。どんぐらい時間がたったんだか感覚もないのに、王サマが耳に口付けて言った。
「すげぇ濡れてるぜ?」
って。違うさ、それ絶対違うさ!そう叫びたいのに口が動かない。最後の最後で踏ん切りがつかない。んなの俺っちらしくねぇってわかってんのに、どうにも言葉が唇を通らなくて、気が遠くなった。
「……っひやぁ、やめっ、や……!!だ、めさっ」
左手に握られたタマに、もっかい意識が遠くなる。内腿が震える。気持ちよくて腹が重くて腰が跳ねる。
「だめさ…」
「天化、好きだろ」
「っきだけ、どッ、だ…今日は、っあああ!!!」
瞬間、ふわって熱いのが押し寄せて目を閉じた。もう!もう!
もらした、と、思ったら一瞬波が引いたと思ったのに。
「ひあっ!?」
ばた足する間で、王サマの舌が震えてる先に絡み付く。なんで!!もう完全に意味がわかねぇ…!ふわふわする。ちくちくしてジリジリして、吸われたらまた腰が跳ねちまう……!
「ッサマ、王サマ!も、や…出ちゃうさ…!!出ちゃう!!」
「いいぜ、このまま出して」
「ちがっ、んんンっ…」
通じない、出せない、だめ、出したら出ちまうさ!そう言ったのに、また"だから出していいんだってば"なんて声がした。ああもう!王サマのバカ!!
「だめさ……」
「今日ノリノリだな〜すげ、かわいい、天化」
ああもう!
「王サマっ…も、も…俺っち我慢できないさぁっ……――!!」

やっと――言った。どっと気が遠くなる。息も肩でしか出来なくて、腹がじんじん熱かった。
もう本当に一刻の猶予もなくって、出した自分の大声でちびったぐらいだったのに。恥ずかしくて恥ずかしくてたまんねぇ顔を覆ったら、
「俺も……!!」
「えっ!?い、うぁぁあッ!!!」
しっ……信じらんねぇさ!!ものすごい力で腰が引っ張られて、一気に奥まで。
「ひうっ…」
「天化、天化……」
違う違うさ、違うっちゅーのに!もう声が出せそうにない。出したら出ちまう!
「すげっ…締まる……」
「うっぁ…」
浅く揺すられるだけで辛いのに、容赦なく奥まで強くくる。必死で唇を噛んで身体の力を総動員した。だめ、だめ、だめさ!!気持ち良さそうな王サマは眉を寄せて揺れてて、漏れそうな俺っちは、気持ちいいのかどうかもわかんねぇ。胸を押し返してもいつもの半分も力が出ない。頭振りすぎて右も左もわかんねぇ!
「あ゙っ…ふああっ!!」
突き上げられた瞬間に、今度こそ腹の上がふわってじんわり熱くなった。もう出てきちまってる……!あ、また……
一瞬の気の緩みで、このまましちまったら、もしかして気持ちいいんかなって、思って焦って打ち消した。んな訳ないっしょ俺っちのバカ!!
「てんかっ」
「う、も…もう無理!!もっちゃうさ……――!!」
最後の力が爆発した。踵落としに王サマが目ぇひん剥いてすっ飛んだけど、気にしてられる余裕がねぇ!ジーパン何処さ!?ジーパンジーパン!!
「もっちゃう、もれちゃうさっ…!」
前の日に脱ぎ散らかしたのを拾って片足突っ込んで、子供の頃以来の全力疾走。ブーツ履く暇はなくって、頭の中は雪みたいに一面真っ白。
「ふぃー……」
待ちわびたシューって柔らかい解放の音がして、気付いたら中庭の松の木の間に裸足でスッキリ立ち尽くしてた。蟻地獄みたいに掘れた白い砂と飛び石が濡れて、どうやって回廊走って飛び出したんだか記憶がねぇ…。ちゅーかここかわやじゃねぇさ…。

ジーパン履き直したら、ぐったり一気に疲れが増して、もう歩く気もしなかった。なんでこんな……。
ぼんやり上がる湯気が恥ずかしくって、震えた身体は確かに空っぽなんだけど、まだ王サマが入ってる感じがする。前も後ろももぞもぞするし。ジーパンの内側、真ん中がじんわり丸く生ぬるくなってて、まだむず痒い。こ……こんなにちびってたんか……!とにかく消えたくて仕方ないことばっかさ……。ゆっくり手摺を乗り越えて回廊に戻ると、また力が抜けた。
もう俺っちに残されてるんは、このまま崑崙に帰るか、旅に出るか二択。うん、旅にしとくさ……。
そう思った矢先に、服を着た王サマがよろよろおろおろ追いかけてくるから、ムカついて思わず肩にくっついた。
「……ま、間に合った?」「…当たり前っしょ……」
かわやじゃないけどね。なんて言える筈はなくって、ばつが悪すぎる。なんでかぽんぽん髪を撫でられながら戻った部屋の床に視線落としたら、戸に向かってポタポタ水滴……よけー消えたいさ……。
「でもまぁ、俺の超絶テクって改めてすげぇよなー!可愛かったぜ?天化の"ああんもれちゃうさ〜"なんてさ!!俺マジ絶倫かなー」
「ううううっさいさ!」


そのすぐ後に聞こえた周公旦の金切り声と、天祥の"僕じゃないもん!"。
王サマが慌てて部屋を出ていって、俺っちは毛布を頭まで被る。うう…やっぱり俺っちは旅に出るさ…。
その日はとうとう、王サマの顔も見らんなかった。


end.

子供くさい天化ちゃんを書いてみたかった十年越し…(笑)
2012/01/03

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