愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない




固く閉ざされた瞼に、輪をかけてきつく力が入るのを見るのが好きだ。最初は戸惑って開いたまま、次に自分の置かれてる状況がわからねぇってな感じで逸らされて、最後は観念したんだか、弱々しく閉じられるヤツの瞼に口付けるのが好きだった。
「……っふ」
その度にいかにも"堪んないさ王サマ"とでも言うみてぇな息をつく。少し左右に首振りながらな。そうそう、天化は毎回そう。それが可愛いっちゃ可愛いし、意地らしくて堪んねぇし、俺も正に"堪んねぇよ!"なワケ。
目は合わない。
「そーゆーときは目を瞑るモンなんだよ、それがマナーな」
はれて初めてキスする様な仲になった頃に、確かに俺はそう言った。だってアイツ両目かっぴらいて背筋もまっすぐ硬直してんだぜ?戦闘前かっつの。
……そんなトコが可愛くて仕方ない俺は、そう言って左手でヤツの目を塞いだ。急に頼りなく力が抜けたらしい天化の重みを感じながら、レンアイ初心者なキスは始まった。あの時もどの時も、煙草の香りでね。苦いっつの、ったく。

そんな始まりを素直になぞり続ける天化は、今もきつく目を閉じて、俺の口付けに震えていた。はっきり声には出さない。負けず嫌いここに極めりとばかりに口を結んで目を閉じて、俺の唇に一つひとつ指先が跳ねる。
コイツが鎖骨より胸より、耳の後ろに弱いんだってのに気付いたのは、確か三回目の頃だ。あれか?普段はバンダナで装備してるからって?俺が意地悪くバンダナを解く時も、天化は肩を震わせる。一番の重装備がバンダナだってのも、今更ながら妙な話だ。
天化が震える。
その度に沸き起こる衝動を抑えるのが、楽しい様で切なくて、俺にはとてもやりきれなかった。
「……ンっ……」
胸元も肩口も二の腕も指先も――傷だらけなんだよ、コイツ。戦闘中に細かい石が飛んだ、やれカマイタチだやれ岩がぶつかった、なんてこたない、相手に斬られた。天化はそれをさも当たり前の様に言う。だから俺は堪らなくて、──堪らないってのは痛々しいってんでも汚らわしいってんでも、そんなんじゃなくってさ。こんな時くらい、俺のトコにいる間ぐらい傷付かない世界があったって悪かないだろ。……なんて思っちまう訳。

愛しくて可愛くて、切なくてやりきれなくて、柄にもなく何度も思っちまう訳だよ、"大事にしたい"って。

今まで沸いたこともない様な膨大な気持ちが膨れ上がるのを感じながら、今日も俺は天化の肌に口付ける。指じゃきっと痛ぇだろ。……たぶん。俺の想像してる痛みは、どこまでコイツの痛みと重ねられているのか、判断下せる材料なんてないのにな。ガキの頃に転んで擦りむいた膝か、プリンちゃんのビンタしか知らないし、俺。

またキスをする。そしてコイツは必ずそうだ。
「……王サマ……」
うっとり、だけど怯えたような躊躇う様な色の目を開いて、指先を震わせる。くそっ!
「ごめん、悪かったよ」
きっと愛したくて堪らない俺の陳腐なオモイヤリ的な物は全部コイツに読まれてて、だから俺はキスをする。……しみたのかな、傷。痛むのか、やっぱり。
掴んで引き寄せかかった腰にも腹筋にも、ミミズ腫れの群れが先陣きって占有してて──ちくしょう!

堪らなく掻き抱きたいみっともない男の衝動を懐柔しながら、ここでくらい、傷だらけの天化が休まるように。羽を広げられるように。
鎖骨にひとつ、左頬にひとつキスをして、濡れるような可愛らしいセックスをした。
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