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「……なんっ」
目が覚めたらそこは見慣れぬ部屋だった。読み慣れない小説よろしく飲み込めない混戦模様のラブホテル。
「……はよ、天化」
生ぬるい隣の体温。ダチのウデマクラ。
「あー……うん。おはよーさ王サマ」
見合わせた目が合うようで合わない。
「ってか昼すぎてら…」
一緒に頬が引きつって、
「馬鹿すぎてなんも言えねぇさ」
「……あー、死んだかも、俺」
全身の重みと二日酔いに二人してうなだれた。
「身体…どうよ?へーき?」
「なわけないっしょ」
「ってーとどっちの」
「二日酔い。」
「……だよ、な。うん、えーと」
続かない会話と、徐々に開く50センチの微妙な隙間は天化から。
「と、……腹痛いさ」
「うわ、わり!ゴメン!」
急に詰め寄った情けない隣の顔の額を叩く右の平手。
「一回寝たらモノんなってるとか勘違いしてるさ?王サマ」
裏腹すぎる言葉に自分で詰まった。
「あー…いや、そうは言ってねぇけどよ」
「そんなだから修羅場ってるさ毎回毎回」
知っている。宵はとっくに覚めていること。抜けきらないアルコールと重い身体。想像以上に難しい"ふつう"や"日常"が、眉毛を下げたダチの前で消えていく。
「なぁ、俺さ…」
「シャワー浴びたら帰るさ」
テキパキ拾う服の亡骸と遮ったダチの声。

「……元彼んトコ?」

跳ねた胸。

「……そーゆートコ野暮って言ったっしょ」

馬鹿馬鹿しくて柄にもなく出そうな涙もひっこんだ。
なんでどうして、その妙な直感だけ当てられるのだろう。諦めたシャワーにも視線を感じるベッドにも背を向けて、袖を通し終わった服。左の靴下だけ見当たらなかった。放り投げたジーンズの放物線の先のドコかで死んでるそれを、探すには馬鹿馬鹿しい。結局。

溜息が昇る。

「……思いっきり腐れてんじゃんかよ…」
呟いた発の声は届かないまま、
「じゃね、王サマ」
はっきり告げた声がホテルの安い演出に反響して返ってきた。
「天化!」
「んー…?」
聞く気はない声。妙に真面目な後ろの声が、あーだのうーだの、唸る母音を繰り返す数秒の後。

「好き」
「……寝言は寝て言うさ」
「いや、……その、好き…んなったかもとか、思ったり」
「王サマあたま死んださマジで」
「なんつーか…えーっと…」
「んじゃ」
「80%!」

叫んだ声に脚が止まった。跳ねる鼓動と、目が回る。

「あー…っと、まださ、100%確定とかじゃなくて…都合良すぎると思うし、俺も」

酔っ払い。まだ酔ってる?夢うつつ?

「……100%んなったときにちゃんと好きって言っていい?」

「馬鹿さ王サマ!俺っちいつでも200%だかんね!」

なにを言ったか覚えていない。
気付いたら縺れる脚のまま走り出して裏路地を通り抜けて、昼間の歩道。穏やかすぎる日常と動いてくれない頭の中身。
そう言えば随分久しぶりに口に咥えた煙草の味に、走りすぎてひっくり返るアルコールの名残。

「……コーチ、」

訳がわからない。目が回る。1年ぶりに呼び出したケータイのアドレスを、

「ひつうち?」

押しかけた指を止めて出た謎の電話。

『ごめん、俺』
「なんであーた」
『閉じ込められちった』
「はぁ!?」
へらりと笑うあの声がして顔が浮かんで、
『見たら財布なくて、…んでトルカとかカードとか全部ケータイなんだわ』
「ほんっと馬鹿さ…」
『あーっと…あの靴下お前の?』
「あーもう!!」

馬鹿馬鹿しくて走った。結局。

「王サマー」
「ごめん!後で絶対返す!」
下げた頭と釣り合わないウインクと、溜息と。
「当たり前さ!えーっと、6千……へぇ!?」
「え?ああ…泊まっちゃったし」

憎たらしい従量制。また走ったATMと、帰ってきてから気が付いた。今更走る必要が特にないこと。飛んだ1万ウン千円。

「絶っ対!割り勘だかんね!」
「天化ちゃんやっさしー!」
「……あーたマジに」
「はい、ゴメンナサイ。」
「……ってかドコ落としたさ?財布…飲み屋?」
「歩いてるときだったらもうダメっぽいよな」
「もー最初っからダメさね。警察は?ケータイも」
「んー…それもちょっと…てかよー、この辺交番あんの?」
「出頭したほういいさ」
「それは勘弁」
二人で歩く遊歩道。
「ん?」
「あ、」
思わず見合わせた顔。いつも通りがそこにあって、
「えーっと…天化ちゃん?」
「……なんさ、発」
ぎこちないまま取ってつけたソレに全開の笑顔と、
「もーやってらんねぇさバカ!」
また走った勝手な脚。ついてくるウシロの彼の脚。
「待っ、うーあ、気持ちわるっ…」
「ばかっしょ…」
「……お前もなー」

好き、嫌い、好き。

とっくに振り切れたメーターとはかりきれない%。

軽々しいのに素直じゃなくて、なにもうそは言ってない。
甘い言葉も唇も、ようやくたどりつくのはもう少し後だけど。


end.

初めての相手が発じゃない発天&天化から矢印な発天を書いたことがないなぁと。
天化よりの三人称なので、発がひたすら軽いおばかに見えるんだけど、もう一回発視点から読んでもらえると幸せだったりします。
2010/12/29
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