スキャンダル・イヴ 3




「ふんがっ…?」
肩にかけられてたらしい毛布がずり落ちて目が覚めた午前三時。背中合わせで備え付けてあるデスクの向こうにPCの明かりが見えた。そこで寝落ちちまってる敏腕マネージャー氏は、俺の自叙伝告知ブログの文面と、最新の会報に載っけるスタッフコメントを書いてたらしい。

「……邑姜」


Yマネブログ。

ご無沙汰してます、Yマネです。
姫発さん、最後の追い込みに入ってますよ!皆さんお楽しみの握手会のお知らせは、もう少々お待ちくださいね。

先程の発ちゃんDays!で「夜空に瞬いて」なんて言っていた姫発さんですが、いつでもキラキラ輝けるのはみなさんのおかげです。これからも応援よろしくお願いします*^^*

昨日までに事務所に届いたお手紙やプレゼントは、明日の撮影後に本人にサプライズプレゼント予定です。
さて、どんな笑顔が見られるのか…Yマネ、その瞬間も激写してみなさんにお届けします!
お楽しみに!

2013/07/30



ああ、ほんと二の句告げねぇや…。コイツが砕けた喋り方が苦手なのも、俺は知ってる。そんなコイツが、だ。ファンの子に妬まれる回数も数知れず、それでも俺とプリンちゃんたちを繋いでてくれる。そんな中で俺が弱音吐いてどうすんだっつーの。明日はしこたまサプライズに驚いたフリしてやろう。邑姜にメシでも奢ってやろう。いつもありがとうってちゃんと言おう。
そんなこっぱずかしい想いを抱いて、その日は筆が進んだ。


「バカっしょ、あーた」
それをくっそ憎たらしい声で吐き捨てやがったのがあのクソAD野郎だ。なんだってまたコイツと焼肉行ってんだか俺が俺に聞きてぇよマジで。野菜もっしゃもしゃしながら、ヤツは呆れ顔でふんぞり返り腐ってる。
「んだよ、バカはねぇだろバカは!」
「バカはバカさ、アホかい!」
「バカなのかアホなのかどっちだよ!」
「バカとアホと両方さ!」
「……なんでお前にこんなボロクソ言われてんだ俺…」
「だってバカは馬鹿さ。あーた、マネージャーに弱音吐けなくてどうやって芸能界生きてくつもりさ?」

急に声をワントーン落とした天化を前に、俺は閉口せざるを得ない。相変わらずもしゃもしゃ野菜を口いっぱいに頬張って、最後に威勢よくごっくんした天化は水を飲み干した。俺の牛タンちゃんはとっくに網の上で焦げちまってる。

「一番近ぇトコでお互い信頼しなきゃなんねぇあーたとマネージャーがお互い弱音も吐けない関係かい?んなのおかしいさ、つぶれっちまう」
「……だってよ、一応女の子なんだぜあいつ」
「もっと事務所頼ったらいいべ」
「それが嫌なんだよ俺は」
「……んじゃあ」

"もっと俺っち頼ったらいいさ"

だなんて。

くっそかっこつけを残して、ヤツは野菜を追加オーダーしやがった。金出すの俺だっつーの!サンチュモリモリ玉ねぎしゃくしゃく草食野郎が、今度は肉巻アスパラのアスパラだけ吸い出して、残りの肉を俺に差し出した。
「いらねぇよテメェの食い残しなんざー」
「あり?これだと一緒にメシ食ってる感じするっしょ?」
「んならせめて先に肉別にして焼こうぜ。つぅか食い方新しすぎてついてけねぇわ!」
「あんたが野菜不足なだけさ。明日の帯番組もざらっざらな肌綺麗に撮ってやっかんね」
「うるせぇ!」

この年になってって思うけどよ。俺はどうやら、業界初のダチ、ってヤツが出来たらしい。

「ったく…姫発さんももう若くねぇんだからよ、あんま無理すんじゃねぇさ。うわ、もう髭伸びてきてるさ…」

うるせぇ!前言撤回だクッソヤロウ!!

end.


2013/07/30
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