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何度も何度も惹かれ合うさだめがそこにあるとして、ならば今。互いを引き寄せているその引力に似た感情も、狂おしいほどの愛しさも、笑みと涙の溢れる幸福と背徳に近い多幸感も、凡てさだめというのだろうか。
そっと糸を紡ぐより繊細な感情を手繰り寄せる。その指の先、描く軌跡に解があるというのだろうか。
そもそも果たしてそれを解りたいと願うのだろうか。
渡された解を、理解しようとするのだろうか。
紡ぎ、離れ、その持て余した幸福と愛しさに狼狽しきる幼い大人の卵たちが寄せ合う唇に、解を求めることこそが無意味ではないだろうか。きっと二人は二人して学を好まない。
そんな恋を、ずっとしてきた。
青年の名を姫発、少年の名を黄天化という。
遠慮がちにそっと重ねられる乾いた唇の感触を、天化は痛く好んでいる。まるでその優しすぎる人間の性質をそのまま受け継いだ唇は、日に焼けて男性へと脱皮を計る天化の肌よりも柔らかで、幾分慎ましやかだった。きめ細かな白い唇に徐々に朱が差す光景は、一種の少女性を持っている気すらする。
――そんなモン一番似合わねぇ癖に。
そう一蹴して腹を抱える天化の声が聴こえた気がする。その刹那、無遠慮に押し付けられた固い唇に、発は思わず苦笑した。
――ったく、いつまで下手なんだ、お前はよ!
そう、発の声が聴こえた気がする。合わさったままの唇に互いの声を漏らす余地などないのだけれど。そんな恋をずっとしている。
天化の少年らしい伸びやかな四肢が発の首をするりと撫で、最後には雄々しい指先が牽制の如く食い込んだ。ひょっとしたらあまやかな挑発のつもりなのかも知れない。そんな予測出来ない独特な彼の唇も粘膜も、発と比べれば実に手入れの行き届いていない硬さや荒さ、男性性に満ちていて、何故そんなにも女性と対極である存在を片翼へ選んだのか──互いに何度も首を傾げ、ぶつかり合い、最後には笑い合って、また唇を合わせていた。そんな恋をしている。強さに焦がれた少年の肌も唇も健康的な橙が彩って、そこへ発が桃色を落とす。そんな瞬間を、発は痛く好いている。
「……っ、ん……ぅぅ……」
どちらからともなく漏れ伝う糖分に満ちた吐息は、唇の後には鼓膜と耳朶を震わせる。甘美という高尚な名を知る二人ではないから、
「かーわいい、天化……すっげぇえろい」
「っ、るさいさ!」
今はまだそんな軽口で成り立っている。
「褒めてんじゃねぇか」
「ケッ! 嬉しかねぇさそんなモンッ……」
そう放てば剣呑に眉を吊り上げ眉間に皺を蓄えて、
「……ふ、ンー……っん!」
一層強く橙と朱が広がった唇を力強く押し付けてくるのだから、
「……このヤロー!」
続く“可愛い”の言葉は、望み通り飲み込んでやった。