十八年間真っ黒だった髪を真っ黄色にしてみたかった。実際は失敗して明るい茶色に染まった髪を、今では気に入っている。
彼女のシャンプー
変化をもたらすのは他人ではない。自分主体で動くのがまっとうな人生である。宛もなく家を出て半年、もう世界は雪が降ってる。
「貴代ちゃん、いい匂いする」
「……シャンプー変えたからかな」
「何の匂い?」
「カモミール」
三百均のバイトは楽しい。カラフルで可愛い雑貨に囲まれているし、平日はだいたい暇。金土日に入ってる居酒屋のバイトは忙しいから、余計にのんびりしたこの時間が好き。
「いいな、この匂い。私も貴代ちゃんと同じのにしよっかな」
明菜ちゃんはいつも私のことを褒めてくれる。綺麗な二重だね、とか、キヨって名前の響きが好きだ、とか、茶色いショートが似合ってる、とか。
そんな明菜ちゃんは今月いっぱいでバイトを辞める。夢が見つかった、んだって。
「明菜ちゃんは今の香りが似合ってるよ」
明菜ちゃんの綺麗な長い髪から香るのか、重ね着の上手な服からなのかはわからないけれど。
「シトラスの香り」
甘酸っぱくて、爽やかな。はじける笑顔が可愛い明菜ちゃんにぴったり。
「そうかなー。えへへ、実は自分でも凄く気に入ってるの」
髪を触りながら首を傾けて照れ笑いをする明菜ちゃんは可愛い。服飾関係の学校に行くんだって言った彼女も可愛い。自分で見据えた道を進もうとしてる彼女も可愛い。可愛い可愛い可愛い羨ましい。
「だよね」
きっと明菜ちゃんはシャンプーを変えないし、長い髪を切ったりしないし、お洒落をやめないし、新しい学校で夢を追いに行く。
自分の、足で、確かに。
「あ、棚倒れてる。直してくるね」
そんな明菜ちゃんの後ろ姿を見てるだけの私って何。思い切って染めたお気に入りの髪はとっくにプリンで、大学を三ヶ月で辞めて出来た時間はすっかり持て余されている。私って何。何者。あああ、面倒臭い、自分主体って面倒臭い。
「貴代ちゃんの作ったこのポップ、可愛いよね」
私は、あの子になりたい。
焦りつつも墜落する十代。