わたしのしあわせ、朝寝坊、クッキー、犬の散歩、新しい服、自習時間、彼の隣。
彼のしあわせ、晴れた日、サッカーボール、お肉、好きなバンドの新曲、未来、彼女の隣。
幸福と隣り合わせ
じめじめする放課後、暑苦しくも汗をかいた後ろ姿と自転車二人乗り。運転手の彼は、涼しそうな着替えたばかりのTシャツを着て、ぐんぐんと坂道をのぼる。
「遥加先輩は何型ですか?」
「いきなり何」
「いや、気になって」
「何型に見える?」
「え〜と、O型?」
ひとつ年下の彼は、帰り道が同じだった。中学卒業と同時に越してきたらしい。初対面は学校のグラウンド、サッカーボールにつまずくわたしに、「何してんの」とけらけら笑いながら、手を差し伸べた。
生意気な年下だと思った。
「残念、B型でした」
「え、うそだあ」
「人を見掛けで判断するな」
前にも言ったことがある。身長の高さだけでわたしのことを新入生だと勘違いして、馴れ馴れしくむしろ馬鹿にしたような態度で話しかけてきた彼は、いまだに成長していなかった。
あれから、選手とマネージャーとして接していく内に過度な親密性を抱いてしまったのかもしれない。
「でもB型の人って確かにB型だなって思いますよ」
「たかが血液で性格なんて決まんないから」
「そうかなあ……」
納得のいかないような顔をした彼は、「遥加先輩」、もう一度わたしの名前を呼んだ。
「何?」
「いい名前っすね」
「あーそうありがと」
そのあとに続く言葉を、知ってる。
「俺の彼女もね、春香って言うんです」
「耳にタコですが」
「遥加先輩を呼ぶ度に思いだしちゃうんですよね」
「依存症め」
前にいる彼が自転車を漕ぐスピードは変わらないのに、どうしても時が鉛を背負ったようにスローな世界がわたしにのしかかる。
「そうですよ、俺はハ、ル、カ依存症です」
「嫌がらせにしか聞こえない」
いつものように彼はけらけらと笑った。
ちなみにね、俺の彼女もB型なんですよ。
「だから興味無いって」
無理矢理に笑って返す。見つめた彼が後ろ姿だったので、意味の無いことをしたとその時気付いたが、わたしが何を考えていても年下の彼は、彼の彼女のことでいっぱいなんだろうと思って悔しがるのもやめた。
帰り道はあと数分だけ続く。