「この左手で触ったものが、すべて黄金になればいいのに」
彼はそう言いながら、私の頬に左手で触った。きっとそれは私に対する愛情から出た言葉なのだろうけれど、私は彼のそんな独りよがりの愛が嫌いだった。この身が動けない黄金になったところで、直に触れ得ない心も動かない黄金になり彼の元にとどまることはないだろう。
彼の左手は私の頬から首、肩、胸と伝っていき、私の孕んだ腹の上で止まった。当てたまま動かない彼の左手は、あくまで優しい。
『一人で育てられるの』、『俺がいなくても大丈夫なの』。そんな、言うだろうと思っていた言葉を彼が全く口にしないことに、私は苛立ちを感じていた。結局、私も彼のことを分かりきってはいなかったのだ。
「この子は、貴方のものにはならない」
もっと切りつけるように出るだろうと思っていた言葉は、思いの外淡々とした声音をまとって滑り出た。彼も、厳しいね、と言って笑うほどの。
「名前は?」
「…そのうち、そのうち決めるわ」
「そう」
俺に似ない女の子だといいね。私の腹を撫でながら、彼は言った。
「嘘」
「え、なに?」
「寂しいなら寂しいと言えばいいのに」
「言ったところで君は立ち止まらないだろう」
「なら、縛り付けたらいい。黄金にして」
「できないよ。知ってるだろう?」
茶番だ、と漠然と思う。それと同じだけ漠然と、黄金になってもいい、とも。
彼のことは、嫌いになった。それと同じだけ、かつて愛してもいた。子を孕むほどに、黄金の夢を共に見るほどに。
私が黄金になったら、腹の中の未だ名もない子は黄金の殻の中で育つのだろう。いつか私を破り、世界に生まれ出る。
このありふれた、くだらない愛などない世界に、この子は生きる。




「あしたを作りなさい」
提出 赤点回避



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