ぺたたたたたたたたっ。先ほどから誰かが裸足で走り回る足音がずっと響いていた。俺のベッドと壁一枚隔てたところから。この北向きの壁の向こうって、普通に外界のはずなんだけどな。そんな問いはもう捨てた。
うるさいぞー。ブーイングのつもりでその壁を軽く叩くと、なぜか反対側の南の壁からどぉん!と凄まじい音がした。
掛け布団の下から這いだし、北窓を開け外に頭を出してみた。雲一つない夜空が広がっている。明日は快晴決定だ。そのきらきらした太陽の下で目の下に隈を住ませたどんよりした人間にはなりたくないので、俺の安眠を守るために止まない足音がする方に頭を向ける。壁をイモリが這っているわけではない。雨の滴が絶え間なく落ちていっているわけでもない。なにもいないのに、しかし止まない足音。
「こんばんは」
人間関係は挨拶から。相手が人間かどうかは知ったことじゃないが。
足音は一瞬止んで、それからこちらに近づいてきた。わお、未知との遭遇。当然ながら俺の目には音源となる誰かの姿など全く映らない。
「いい天気ですね」
ぺたぺた。
器用に足音で返事をしてきた。音の源は、近い。腕を伸ばせば届きそうなくらいだ。もう少し、そばに来たら。そういう意味を込めて外壁を軽く叩くと、その誰かは面白がるように南の壁を連打した。あまり新しくないワンルームマンションの一室が揺れる。冗談みたいに揺れたので思わず笑うと、足音も笑うみたいに響いた。
「えーと、ぺたさん」
どぉん!
名前が不満のようだ。
「なら足音の君」
だんだん!
「謎の足音星人」
ばんばんばん!
「ミス・フットプリント」
ぺた。
え、フットプリントってすでに足音じゃないですが。貴女アイデンティティ捨ててますがそれでいいんですか。
「ミス・フットプリント」
ぺたぺた。
足音がもう少し近づいた。いいのか。
「…長いから略していい?ミス・プリン」
ぴょんぴょん、と相手が跳ねたのが分かった。
自分の適当さにも笑えたが、お前もそれでいいのか。本当にそう呼ぶぞ。
「なあ、プリンさん」
ぺた?
「あんたって結構俺のタイプだよ」



「(I love you)を訳せ」
提出 赤点回避


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