知らなかった。
 あの子に彼氏が出来ていたなんて。私、知らなかった。

行き遅れバージン


 季節はいつの間にか秋。朝起きてすぐ、指先の冷えに気付くようなそんな日に突然、高原真帆からメールが来た。
 高校三年生の中頃から妙に親しくなったのが真帆だ。お互い別の友人グループと固まっていたが、たまに二人でご飯を食べたり買い物に行ったりしていた。

 私にとって真帆の存在は新鮮だった。サブカルチャーな話題に長けていて、性格は少し冷めていて、恋愛関係は匂いもしない彼女は話していてとても楽な存在であった。
 どうしてって、年頃の女子高生なんてものは暇があれば男の話といかに自分が素晴らしいかの話ばかりだからだ。まあ、きっと私もその部類だから非難するのはおかしい話なのだけれど。

 今年、高校を卒業して大学に入学した。真帆とは別の大学だったので、他の友人同様、関係は薄くなっていって、たまにメールをするくらい。

 元気?
 ──元気だよ。

 私は真帆と仲が良いつもりでいたけど、気付けば私は真帆が「きっと元気だ」ということしか知らなかった。

 前回のメールから二ヶ月。真帆からの久しいメールには、「あたし、彼氏が出来て妊娠したから結婚するね」、と目を疑うような文字が並んでいた。

 私は反射的に真帆に電話をかけていた。
 何を言うかも、何を尋ねるかもわからないまま。

 コールの間、頭の中を巡りめぐるのは、どうして、なんで、どうして真帆が、なんで私より先に、というような思い。

 そしてハッとして呆然とする。

 私は、真帆のことを、彼女のことを、知らぬ間に見下していたのか──。

 電話が繋がる。

「なに?」

 小さな笑いが含まれているような真帆の声。
 私はすぐには、反応出来ずにいた。


微糖




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