白い部屋、白いワンピース、白い肌。あの子はきっと、自分の細い肩から白い羽根が生えるのを待ってる。

あの子

 イマジネーション、もとい、僕の妄想。あの子はただの人間に見えない。まるで天使のようで、でも飛べたりなんかしない。色素の薄い髪は、小学生の頃に親に金髪に染められたかららしいが、今あの子が金髪になったら、どこからどう見ても天使。

「金髪になって」
「いやだ」
「どうして?」
「校則じゃん」
「じゃあそのスカート丈も違反」
「スカート丈を長くしたら残念がるのはそっちのくせに」

 あの子は僕があの子のことを好きなことを知ってて、僕はあの子のことを何も知らない。
 不利だ。
 圧倒的に不利だ。だけどこの距離がちょうどいい。あの子はいつもお得意の笑顔を僕に向けて、ふわふわと誘惑する。

「彼氏とか出来たら僕に言ってね」
「なんで?」
「好きだから」
「逆に残酷じゃない?」
「ずっと知らなくて君を好きなままの方がつらい」

 よくそんなことを平然と言えるね、とあの子は困った顔で言った。そのまま、ふいと向けられた背を目で追った。

「だって迷惑だろ?」
「そうかな」
「そうだよ」
「もう彼氏いるよ」
「ほんとに?」
「嘘だよ」
「心臓に悪いよ……」

 僕が力なく笑うと、あの子は振り向いて「意気地無し」と笑った。駄目だ、やっぱりあの子は可愛くて、天使のようで、飛んでいってしまいそうで、手が届かない。

 天使は、悪戯に舌を出して言った。

「馬鹿ね、あなたを好きになるかもしれないでしょ」

 根拠が無くても言える。そんなことあり得ないよ、と。僕はあの子に触れられない。実際、怖いんだ。

 馬鹿はお互い様だ。


「舌先」
to 微糖

天使ネタ、好きです。

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