時計の針は知らぬ間に足を速くして、きっとニューレコードを叩き出してる。社会に飲まれた人間たちは、そのことに気付いていないのだ。

タイムランナー

「もう木曜日?」
 小笠が言った。明日終われば休みだ、と誰かが呟いて、ばーかレポート仕上げなきゃじゃん、とまた誰かが続けた。
 女子大と言うのは華やかさと野蛮さが入り雑じるカオスだ。みんな精一杯めかして来るけれど、言葉遣いは荒いし姿勢だって悪い。
 仕方無いことだ。行き帰りの出逢いに期待してみる日常は、あと一年続く。合コンに来る男なんてあり得ない、と呟く彼女達が、ナンパを待っていると言うのも変な話だが。

「宮間、レポートどうよ」

 つけまつげを装着した小笠が尋ねてきた。帰り支度を済ませた私は、「月曜までに終わるわけないじゃん」と半笑いで答えた。

 お尻を叩かなければ動かない世代、と講師が苦い顔をして言う。その通り私たちは期限間近になるまでレポートなんて触りもしない。だからといって終日暇な日は無くて、バイトやサークルに忙しい毎日。
 恋なんてしてらんない毎日。

「宮間はそろそろ男っ気が無さすぎる」
「それはそれはどうも」
「いや褒めてないし」

 小笠はバイト先の店長とどうやらいい感じらしい。誰も言わないけど(私含め)、そんなの遊ばれてるに決まってる。だけど最近の小笠はなんだか女性ホルモン分泌しまくりな感じで、すごく楽しそうだから干渉はしないことにした。

「じゃね、宮間」
「楽しんでこい、小笠」

 私が手を挙げると、小笠はにかっと笑って可愛らしく控え目に手を振った。女ってのは本当にこういう小さな変化を無意識に起こしているから不思議で、その根源である恋愛から暫く離れた私には縁遠いことだ。

 さて、帰るか。独り言を呟いて、鞄を持ち上げると携帯が光る。振動するそれを開くとメールが一件届いていて、山谷、と表示されるディスプレイ。

 ──今度映画行こうよ!

 昨日は寝たふりをしてメールは返さなかった。その前も、ずっと前も、たいして相手にはしていない高校の元同級生。

「誰でもいいって訳じゃないんだよな」

 毎日めかし込むのは今まで見たこともない王子様に出逢うため。まあそんな人いないってわかってるけど期待するのはタダだし、どんな結果であれ小笠みたいな顔がしてみたいってのが本音。それも来年の就活までには、とか、時間は刻々と私の背後に迫って来ているんだけど。

「じ、か、ん、無、い」

 今日は手早くメールを返してみる。そう、私には山谷なんかに構ってる時間は無いんだ。


「ジェット」
to 微糖
from 心臓鷲掴み!




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