第二学年バレー部所属、伊藤未知佳、告白します。実は私、Bカップ有ります。
 だからどうした、と野次が飛ぶ。ちょっと黙ってろてめえら、と言いかけた所で、おっとそう言えば自分が天敵の目の前にいたことを思い出して口を塞いだ。

「……ですから、ぺったんこまな板じゃありませんし、水平線でもありません。以後お見知り置きを、鈴井先生」

 言い終わってから背の高い彼の顔を見上げた。百八十ウンセンチのところにあるそれは、呆れたように溜め息を吐いた。そして黄色と紺と白が入り雑じるボールを片手に、それをあたしの頭にぐりぐりと押し付ける。

「イマドキのガキは恥じらいってもんがねーんだよ。大和撫子なんて何処探してもイナイイナイ。いるのはしょうもない胸のサイズひけらかす下品なまな板娘だってんだから、世も末だな」

 それだけ満足気に言って、鈴井先生は首にぶら下げていた笛を甲高く吹き、練習再開を唱えた。
 熱気の溜まった体育館は、それだけで本日数度目の緊張感に包まれる。

 私も急いで持ち場につき、次々と飛んでくる鈴井先生のアタックに身を構えた。自分の順番が回ってくると、「お願いします!」とハッキリとした口調で叫ぶように言う。そうすれば彼は、とびきりのアタックを打ち込んで来てくれるのだ。
 中学のバレー部はなんと言うか最悪だった。顧問も仲間も上下関係も。だからかもしれない、私は今のバレー部が大好きでたまらない。何よりも大切な気がしてならない。

「オイまな板!」
「お願いしまああす!」
 鈴井先生のゴツゴツした手のひらからエンジンの掛かったボールが打ち込まれた。自分の位置より幾分か前。反射的に飛び込む。俯せの状態のまま片手の握り拳で何とか上へ。成功。しかしながらフローリングに躊躇なく擦れた為、素肌の部分がヒリヒリとした。

「ナイスガッツ、まな板だからこそ出来る技だな!」

 この鬼顧問め。
 毎日毎日、こんな風にして体力の限界までボール拾い続けてるけど、いつかそれが終わってしまう日が来るんだろうか。全く予想出来ない。信じられない。鈴井先生に褒められたり、励まされたり、時に厳しい言葉で犯した間違いを正されたりする日も、まな板! だなんてセクハラまがいな事を言われる日も、なくなるのかなあ。

「おら、ボーッとすんな!」

 ゲキが飛ぶ。急いで持ち場に戻りながら、アンタが余計なこと言うからだろ、と心の中で唾を吐いた。
 私がどれだけ背伸びをしても、届くことのない身長を羨ましく思う。
 届くことのない思いを恨めしく思う。

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