桜舞う。自転車を押して下る四月の坂道。隣には真新しい友達、ではなく小学生の頃から見続けていた顔。愛らしくて憎らしい、あの顔。

ガールフレンド

 桃井花菜ちゃん。名前負けしないぐらい、可愛い女の子だ。小学生の時、あたしの初恋の人が彼女を好きだったぐらいに美少女だ。中学校では生徒会の会長。年上からは可愛がられ、年下からは慕われるキャラクターで、頭良し運動神経良し、非の打ちどころの無い完璧な彼女が、私は羨ましくて羨ましくて妬ましかった。

 そんな彼女が、私に話掛けてきた。
「紗智子ちゃん! 同じ学校だったんだね!」
 この時、やはり彼女は試験の時も合格発表の時も入学説明会の時も、私に気付いていなかったのだということを思い知らされる。わかっていたけれど。やっぱり悔しい。意図的に同じ高校を選んだのでは無いが、私は自分の選択に後悔した。彼女と第一希望が同じだと気付いた時、どうして私は別の高校を探さなかったのかと。

 地味な私には勉強しかなかった。いつも必死こいて机に向かっていた。やっぱり天才は違うね、と周りの子には言われたけれど実際の私は水面下でジタバタと喘ぐタイプで、本当の天才は結局の所カナちゃんだ。彼女が苦労している顔なんて見たことがない。いつもにこやかで綺麗で。キラキラしてる。

「新しい学校って緊張する。紗智子ちゃん、一緒にいようね」
 間に合わせの友達だと、暗に言われた気がした。それがあっているのか、はたまた私の被害妄想なのかはまだわからない。五月に入る頃、私はまた同じように彼女に声を掛けて貰えるんだろうか。

「……うん」

 カナちゃんは。
 妬ましい程に憧れだった。生まれ変わるなら、と何度も願った女の子だった。私に無いものをたくさん持っている彼女が大好きで、だから悔しかった。

 私は今日まで、彼女の友達ですらなかったのに。

「そうだ。これから一緒に登下校しない?」

 目を思いきり細くして、満面の笑みでカナちゃんは私を見た。カメラを構えたくなるほど、完璧な被写体だった。
 私は彼女が憎らしくて、目障りで、嫌いだと思い続けていたのに、こんな笑顔を向けられるとやっぱり拒めない。双方にとって虫のいい展開だってことはわかっているのに。一時の、埋め合わせってことくらい。

「う、うん……!」

 やっぱり可愛い子って卑怯だと思う。

「愛しい、哀しい」
to 月魚/from 野呂


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