小説 | ナノ








(岡崎京平)




特に自分の意思で隠し事をしようとしている訳ではない。よく周りに言われる。都合の悪い俺の話はしてくれないって。

「最初から言ってよ!」とよく言われることが多いが、わざわざそんなどうでもいいことを言う意味も分からないし、だから言う必要がないんだと思う。言う必要がないから言わないだけで、隠している訳じない。けど、そう思われてんならもうそれで通すしかない。

でもまあ、隠しているということにしとこう。

ここ最近の出来事で、誰にも言ってないことがある。それが、1人の女の子と会ってることだ。

俺の恋愛経験は、中3の時に1度付き合ったことがあるのみ。これは皆が知っていることだと思う。
前に中学のメンツで話した時に、「京ちゃんって女子と喋ってる?」と言われた。って位俺はイメージないらしい。それと、「社会人になったら知らない間に彼女できて色々やってそう」とも言われた。これはまあ、何とも言えなかった。


ここからは、仲の良い友達も知らない話。
言ってないだけなんだけど。


同じ中学で、高校も同じの友人がいる。彼女は中3の時に転校して来て、同じクラスだった人だ。名前は原田ゆりのと言う。高校ではクラスが違うから、直接話すことはあまりない人だった。

最初に俺らがヤったのは、ノリだった。中3のクラスの仲の良かったメンバーで遊んだ帰りに2人で話すと、そんな話になって、それから…ね。

「京ちゃんって彼女いるの?」
と聞かれたから
「いないよ」
と答えると、
「なんだ、つまんない。京ちゃんのことだから実はいました展開期待してたのに」
と返される。何でみんなに同じようなこと思われてるんだろう。全然そんなことないのに。

「じゃあ他に女の子と関係あるとかは?」
「それもない。つーか、女子とそんな絡まないもん」

高校入ってから、女子と絡むのは減ったと自分でも思う。ってか、ほぼないに近い。何故かは自分でも分からない。


「じゃ、京ちゃんの恋愛経験はベロチュー止まりか〜」
「なんか嫌な話掘り返してきたな。ゆりのはどうよ?」
中3の時の話だ、こいつは知っている。まあ、聞かれたから、聞き返す。

「あれ、知らない?小池先輩と付き合ってたよ」
小池先輩……あ、バスケ部の先輩だ。そういえばそんな話聞いたことあるような。全然忘れてたや。

「じゃ、君は恋愛経験豊富な人かい」
「少なくとも、京ちゃんよりはね」
「うるさいですー」

すると突然、ゆりのが俺の腕を掴む。

「どう?私とやってみる?」
上目遣いされながら言われる。
一瞬迷ったが、誘いに乗ってみた。どうせ誰に迷惑かかるわけではないし、と思って。

それが、始まりだったってワケ。






あれから2ヶ月くらい経つかな。

1回ヤったからと言って会い続けてる訳ではない。むしろ、あれっきりだと思っていた。
なんとなくやり取りを振り返ってみると、彼女のことが恋しくなったんだろう。寂しくなった気分だ。別に好きって意味じゃないし、ヤリたい訳でもなかったけど。


「ゆりのに会いたい」
とメッセージを送ってみる。
「そういう意味で捉えていいやつ?」
と、返される。

ま。一度やっちゃってる関係だもん、な。

「そうって言ったら?」
と返すと
「それなら問題ない」
と返される。

いや、それなら問題ないってどういう意味だよ。

ぶっちゃけ俺自身もなんでこうなってるのか分からない。何なんだろうか。

まあ、いいさ。
平穏すぎる日常に、何か、なんでもいい。刺激が欲しかったから。




それ以来、たまに会うようになった。ヤってる時もあるけど、基本はくっついて過ごすだけだ。

別に恋愛感情はない。でも、彼女の温もりに安心感がある。だから、離れられない部分がある。これが依存なのかは分からない。いや、分からないことだらけだ。




この話は、まだ、俺と彼女だけの秘密。










「京ちゃん!!現英の教科書ある?!!」

休み時間、ゆりのが俺のところへ走ってやってきた。
「あるけど…忘れたの?」
「忘れたの!!他の友達に聞いたらみんなないって言うから困ってたの」
「しゃーねえな。B組6時間目だからそれまでに返してくれれば」
「ありがと京ちゃん!!」

教科書を渡すとゆりのは走って教室に戻った。俺がB組で、ゆりのはE組。だから教室も離れてるほうだから、こういうことがない限りあまり話さない。

「京ちゃん、まだゆりのと仲良いんだね」
隣にいた藤悠に言われる。藤悠も同じ中学の友達だ。
「別に1回も仲悪くなったわけじゃないし」
「いやー、あんまり見なかったしさ」

こういう話の時こそ、本当のことを言うチャンスだとは思う。でも中々言い出せないから、こうなってるんだけど。

「京ちゃんだからどうだろうねー?」
「勝手に想像してろ」

ま、今は言わないでいっか。




「知らないところで何かやってそう」っていうイメージを持たれることが多い。俺が何も言わないからそう思われるだけなんだけど、俺自身もなんでこうなってるのか分からない。自分のことを考えると、自分のことなのに分からなくなってくる。

何なんだろうね、自分って。







たしかに俺って、言いたいことをハッキリ言える性格からは程遠い。だから薫みたいなハッキリした性格が羨ましいとは思う。

素直になるって、難しいね。


結局は汚い人間だ。俺も。
誘われたら断らずに話に乗るし、今の自分も、たった一人の女の子とそういう関係がある。そして、その瞬間が、気持ちよくて、好きだ。

って思うあたり、俺も俺だ。





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