小説 | ナノ








(山下快人)


吹奏楽部にとって最大のイベントといえば、やっぱり夏の吹奏楽コンクール。
そして俺は高校3年生。小学生から吹奏楽をやっている自分にとっても、最後のコンクールだ。

将来一般バンドに入るかはまだ迷ってるが、学校バンドとしてのコンクールは本当に最後。俺は進学しないからな。吹奏楽部に入りたくてこの西星高校に来たからには、笑顔で終わらせたい。


コンクール前日。自動車関係の職種を希望している俺は、なんと企業見学が入ってしまい、前日の合奏に参加出来なかった。見学が終わり学校に着いたらもう終わっていたからだ。

「かーいーとーー!!きたー!!」
と、俺を見つけるなり叫ぶ空翔。

「な、なんだよお前ら…」
今この状況、男子が揃いに揃って俺の周りにやってくるんだけど、何この状況。

「快人先輩ー、やっぱ先輩いないと私やってけないですよ合奏…」
と、サックスの後輩の歩穂もやってきた。
「すまんって、お疲れさん!」
「あとスケルツァンドで合わせたいところあるんでいいですか?」
「いいよ全然、パート練の教室ってあいてる?」
「まだ春貴が練習してるんであいてますよ!」
「おっしゃ今から音出しして行くわ!」

俺は早速楽器を出し、音出しを始める。


…もう、明日からなのか、コンクール。

本当にあっという間すぎて、実感がない。


今年のコンクールでは課題曲自由曲共にソロを吹かせていただくことになった。コンクール以外でもソロフィーチャーや個人コンクールの出場などソロの機会を沢山頂いて、一年前の自分と比べると、ソロに対する思いは変わったと思う。あんなに嫌々やってたのに、今になってはへっちゃらだ。

サックスの講師の先生のレッスンも辛かった。心折れそうになったことも少なくはない。でも、それを乗り越えられたから今の自分がいるんだ。



スケルツァンドのサックスの部分を合わせる。ここは何度2人で合わせたんだろう。ここを特に地道に合わせてきて、最近やっと納得のいくようなハーモニーに近づいてきた。

「ここもうちょっと俺の音聴きながら吹ける?前半は良いんだけど、後半ちょっと出過ぎてる」
「わかりました。あと音色はどうでしたか?」
「音色はいい感じ。1stと2ndで溶け込むようになったと思うからそれ継続できるように」

まずこうやって音色を俺に合わせられること自体凄いことだと思う。後輩だけど、何でも吹きこなせるところはすごいと思う。

「やっぱり先輩がいたほうがちゃんと練習できるんでありがたいです…!」
「ほんと?練習とか進めるのそんな得意じゃないんだけどな…」

俺本当に練習進めるのだけは苦手。ペア練習はまだやりやすいほうだし、パート練習はまだいいんだけど、木管のセクションリーダーもやってるもんだから、セクション練習とか本当に苦痛で、巧や空翔と助けを借りながらやってきてたな。





部活をやっていて1番好きな時間、やっぱり部活終わってからの時間。喋ったり、好きな曲を合わせたり、時間あればどこかへ遊びに行く。


「快人!Septemberやろ!」
突然空翔がやってきた。"September"という曲は、様々な演奏会で吹いてきた、アルトサックスのソロフィーチャー曲だ。

「はあ?!何いきなり」
「いーじゃん気晴らしにさ!」

空翔のピアノ、泰輝のティンバレスに修一のドラム、怜太とトランペットに響哉のトロンボーンと合わせてると、そこにいろんな人がやってきた。

この時間、やっぱり好きだ。
部活中がいくらつらくても頑張れる。元気になれる。

西星高校の吹奏楽部で良かったと思う。明日のコンクールは、金賞代表を獲ろう。











最後のコンクール。さすがに緊張はそこまで大きくないが、緊張してないと言ったら嘘になる。

「余裕ありそうで、余裕のない快人くん?」
本番前の舞台裏、巧に小声で話しかけられる。

「なしたよいきなり」
「微妙に震えてるなぁって」
「あ、バレた?」
「ま、頑張れな。ソロ。今日はまだはじめの一歩を踏み出す段階なんだからさ。」
「ありがとな。」

まだ地区大会だ。県大会、支部大会、そして全国大会に向けてーーーーー









結果は、金賞。更に、県大会への切符も手に入れた。だが、2位抜けだ。



「代表には選ばれましたが、悔しい思いもし、個々反省点があると思います。次の部活からも気を抜かずに精一杯取り組みましょう」

と、ミーティングの時、部長の空翔が言い、部員が返事をする。



その時、俺は緊張感が抜け、一瞬だけ視界が暗くなった。

「おー?大丈夫ー?」
隣にいた響哉が俺の体を支えてくれた。

「大丈夫、」
「相当頑張ってたもん、快人。ソロ良かったし!」
「そうか?なんかありがとな」

にしても、これで何度目のだろうっていうぐらい毎年コンクールに出てるのに、緊張するのは毎年のことで、ソロなんて小6のコンクールでも中3のコンクールでもあったのに、今年は特に緊張した。

でもまだ地区大会だ。これから県大会、そして目標の全国大会までは支部大会も突破しなくてはならない。今の段階でこんなもんじゃ、俺もいざとなったときに弱い人間だから、どうなることやら。

本当に、本番の時だけメンタル弱くなるのどうにかしたい。もっと緊張せず、楽しみたい。最後の年だし。










地区大会明け、俺は2人の男友達と約束をしていた。

同じ中学の吹奏楽部で同期だった、クラリネットを吹いてた瞬と、トランペットを吹いていた藤悠だ。
藤悠は高校では続けていないが、瞬は地区1位突破の桜学園高校の1stクラリネット吹きだ。


「そういえば俺、コンクール行ったんだよね」
と、藤悠が言う。
「え?!ふじどこにいた?!」
瞬がびっくりする。ちなみに藤悠のことはみんな、 ふじ と呼んでいる。

「わりと後ろの方だったけどね。丁度南聖中いたから仲里先生の隣でね」
「うっわずる!」
「快人のソロめちゃくちゃ褒めてたよ、特に課題曲なんて」
「え、まじ?!」

俺らの中学の時の顧問の先生、仲里先生は確か俺が中学2年の時に我が南聖中にやってきて、それから色々とお世話になった先生だ。時には言い合ったけど、先生もかつてサックスプレイヤーだったから、引退した今でも会ったら楽器の話を沢山している。

「いいなー、快人。サックスだもんな〜」
と瞬に言われる。
「瞬のことも言ってたよ、あいつ桜高の1stクラかよって」
「びっくりされただけじゃん、それ」

高校のメンバーも好きだけど、やっぱり中学のメンバーは違った良さがある。俺らの母校は東日本大会にも出ていた中学で、俺も中2と中3の時に経験しているし。


「頑張れよ二人共、」
「「ありがと!」」





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