小説 | ナノ







(森島透輝)




過去の恋愛、いい経験をしたのかと聞かれると、イエスと答える。いくら酷い別れ方をしても、その人といることでプラスになったことだって沢山ある。部活をやっている身としてはつくづく思うことだと。

高校3年生の春も過ぎ、大事な大会の地区大会も終わり、今は県大会に向けて部活に取り組んでいる。受験生にもなり勉強にもより力を入れなきゃで、忙しい日々が続く。

ソフトテニス部の同期の奴らが次々と恋愛をしている。次々と増えるリア充。そいつらを見てると思い出すのはやはり、俺がまだリア充してた頃の話。

過去に付き合った回数は3度。その中でも自分にとって1番だと思ったのは中3の終わりから高校1年の秋頃まで付き合ってた女の子。別れ方も全然酷くはないし、今でもやり取りはしていて、1番と言っていいほどの女友達だろう。



そんな彼女、菊永さくらに突然「会おう」と言われ、部活終わりにさくらの家に行く事になった。
久しぶりだな。さくらとは小学校違うし、この辺来るのも久しぶりだ。


「久しぶり」
そう言われて俺は家の中へ入った。




「一つ質問。なぜ突然会おうって言ったの」
俺はずっと気になってたことを聞いた。1度破局した関係なのに。
「なんとなく。これといった理由はないよ。ただ単に会いたかったから」
と、返される。

それから話は次第に盛り上がっていき、中学時代の話や高校での出来事も聞く。

さくらはモテるほうだと思う。貴斗が同じ小学校だったらしくてその時の貴斗の友達もさくらのこと好きだった時があったという話も聞いた。中学の時も俺らの学年の男子からはとても人気の高かったであろう。勿論、可愛いからなんだけど。

「っていうか私と同じクラスに男子のソフトテニス部いるよ。透輝知ってるかな」
「え、誰?」

春日高校といえば竜斗と太一が西星にいつも絡んでくるからな。知ってる人は知ってるや。

「是永太一!席近いからよく話すよ!」
お、まじか。太一とは部長同士なんだよな。
「俺、高体連あいつと竜斗に負けたんだよなー」
「そーなんだ!じゃあ太一と菜々子付き合ってるのも知ってる?」
「勿論知ってるよ。竜斗と滉希から聞いたし」

俺らと同じ中学で、さくらと中高と部活一緒で親しい菜々子は、その太一と付き合ってんだよな。竜斗曰く、何だか地元一緒らしくて、高校で再会したらしい。

「悠斗もすずと付き合ってるし、滉希も瞳と復縁したし、西星のテニス部3年もリア充ばっかなんだよなー。」
俺がほざくと、
「あれ、透輝って別れてから彼女できてないの?」
と、さくらは笑いながら聞いてくる。
「ねーよ。気になる人はいて言わないつもりだったのにバレた挙句、部内で問題になったくらい」
日菜子のことかわいいって思ってた時あったなー、俺。まあ、貴斗たちと仲良くなったから今思えば全然良いんだけど。

「つーか、さくらは俺と別れてから彼氏できた?」
「できてないよ。そう簡単にできるもんじゃないよねー。周りリア充増えて困ってる」
「互いに、周りに置いてかれてる同士か」
そう、何気なく周りの話をしてる時だった。



突然、さくらが顔を近づけてきた。
俺は動じずにいると、さくらの唇が俺の唇へと当たった。ほんの一瞬。

「何してんの」
聞いても返ってこない。

だから、思わず。

「んん、」
その場に押し倒すかのように重なり横になり、俺は深いキスをした。さくらの声が漏れる。なんて色っぽいんだろうか。

俺はそのままの体制でさくらのことを抱きしめると、向こうからも抱きしめられる。そして、何度も口付ける。そのまましばらく俺らは言葉を発さずにいた。
この感覚でさえ、懐かしく思えてくる。





…何分経ったんだろうか。俺の携帯から通知音が鳴った。…何だ、携帯会社からの広告か。
その瞬間、2人とも我に返る。

「…ごめん。つい。」
俺は謝った。
「全然大丈夫。懐かしいなって、思い出してたから。」
と言われるが、さっきまであんなことやってたもんだから、中々顔を合わせづらい。


「ま、ここまでやっといて言うのもおかしいけど、これだけは言わせて。俺は復縁する気はない。」
「あ、そう。1度破局したから?」
意外と冷静な反応が返ってきた。
「そうだ。どうせまた付き合ったって、同じことの繰り返しだろ」
むしろそのまま付き合えたとしたら、何故俺らは別れたのかっていう話になる。

「確かにね。だったら私もこのままのほうがいい」
「ぶっちゃけ何で俺にキスなんかしたの」
「透輝のことまだ好きだから。逆に聞くけどなんで私が軽くキスしたくらいで、透輝は押し倒してまで私にキスしたの?」
「…勢いに飲まれただけ。」

決して恋愛感情がなくなった訳ではないから、その、僅かに残っている感情が働いた、とでも言えるだろう。あの瞬間の彼女が、可愛かったんだ。
でも、危なかった。あそこで通知音が鳴らなかったら、俺はどこまで彼女に手を出していただろうか。

滉希が言ってた、自分を止められないって、きっとこういうことだ。今俺も実感した。

「きっと、1度破局した関係じゃなかったら今すぐ付き合っただろうね、俺ら。」
「そーだよね。まー、でも私も、透輝の考えに便乗するけど」
「そうしてくれたほうが、有難い」
今の状況だと、これ以上君には近づけられない。いや、さっきの行動でさえ本来は今の俺には無理な事だった。

大体こいつと別れたのだって、俺が目の前のことで精一杯になってた時に俺自身から別れを告げたからだ。その頃は俺のさくらへの態度も非常に悪かったし、疲れ気味だったしで、俺の状態も分かってたんだろう、すんなりと了承してくれた。その代わり、「これからも友達として話そう」という条件付きで。ま、全部悪いのは俺だ。

部活に勉強に、部活では部長もやって、勉強は今年は受験生なんだし、今の状況でまた付き合ったところで前と同じことになってしまうのではないかと。

さくらとまた連絡取り始めたという報告を悠斗にした時に「復縁する気はあるの?」と聞かれたが、俺はNOと答え、俺なりの考えを悠斗に言うと、納得してくれた。

「最低でも、高校生のうちはきっと無理なんだろうね。俺が恋愛するのは。」
俺なりの、結論だ。

「透輝って部活は強いし勉強もできるけど、割と不器用だよね、特に恋愛に。中学の時もそうだったじゃん?」
「…否定はできない。」
まあ、確かにそうだ。

最低でも高校生のうちは俺らは付き合うことはないだろう。もし今後もう1度付き合うとならば、今はもう少し、お互いを分かり合う期間が欲しい。

こんな自分を正面から受け止めてくれる人が理想的だが、俺がこんな奴だもん、早々いない。でもさくらは受け止めてくれるほうだ。


「でもまあ、前よりは、復縁する気はできたかな。俺やっぱ、さくらのこと好きだわ」
「…じゃ、それまでを待つしかないね。私はいつでもいいし、透輝のタイミングで良いから。」
優しく言葉をかけてくれて、俺は今にも泣きそうだ。俺が生きてきた17年間の人生で出会った中で、1番の女の子だと思う。


「ありがとう、さくら。」



君の優しさに、また、甘えてもいいかな。






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