※石化前




使われていない第三準備室は埃っぽいし、分厚い雨雲のせいで午前中なのにどこか薄暗い。窓に叩きつけられる雨、二限目が終わると同時に降り出した雨足は強くーー今日はもう止みそうにないのかな 朝はあんなに晴れていたのになあ・・・置き傘あったっけ。ぼんやりと視線をさまよわせていると右手をぎゅっと握られた。


「今日 いいか?」

何が、なんて無粋なことは言わない。にこっと微笑めばそれが答えだ。学校一有名な、科学大好き天才少年 石神千空くんはわたしの顔が好きみたい。おでこ、まぶたの上、鼻先、最後に唇の順で慈しむようなキスを落とされる。顔じゅうにキスされると化粧が落ちるからやめて欲しいと前に言ったはずだがどうやら無かったことにされている。わたしの右手を握っていた手を頬に添え、ゆるゆると指先で撫でた。それがくすぐられている感覚になり 体を反れば千空はそれが気に入らなかったみたいで 機嫌が悪いと前面に出したむっとした表情になる。クールのように見えて千空はその実 表情豊かだ。本人には言えないけどそういうとこ、結構好きだよ。






放課後になっても変わらず降り続ける雨にげんなりする。ぎゅうぎゅうに荷物を押し込んだロッカーの中を全部引っ張り出しても置き傘は見当たらなかった。出てくるのはぐしゃぐしゃに丸められた期限切れのタピオカ屋のクーポン券に、中間考査のテスト用紙、ずいぶん前に配られた数学の宿題もある。あ 電子辞書こんなところにあったんだ、なくしたと思ってたから見つかって良かったー。


「汚えロッカーだな」
「わ、びっくりした!」

良く言えば宝探しのロッカーの中に夢中になって声をかけられるまで すぐ後ろにいるなんて全然気付かなかった。
迎えに来た千空を待たせるわけにはいかない。出したばかりの中身を急いでまた同じように押し込む、ーーごめんね明日ぐらいに整理するから許してーー目が付いてたら恨めしそうに見てるんだろうな、雪崩れてくる前に勢いよくロッカーの扉を閉めた。

「折り畳み傘無かったから入れてくれる?」

千空が手に持つ黒の傘を指差しながらそう言うと、仕方ないと言わんばかりにため息をつかれた が、眉を見て思わず笑ってしまうーー千空は気付いてないけど 嬉しいとき右の眉を少しだけ上げる、わたしだけ知っている癖ーー相合傘嬉しいんだ かわいいなあ。

「なに笑ってんだ」
「うーん、ひみつ?」

不服そうな顔を無視して傘を持っていない空いている手を繋ぎ昇降口に向かう。雨がこれ以上強くなる前に帰らないとね。






わたしの部屋に入ると同時に抱き締められ ワイシャツにまで染み込んだ薬品のーー病院っぽいにおいがする。背伸びして千空の首筋に顔を埋め 男の子特有の厚みのあるにおいを胸いっぱい吸い込む。服と千空自身のにおいが上手く混ざり合って すごい好きなにおいだ。フェロモンに近いそれを楽しめば なにを思ったのか千空の抱きしめる力が強くなる、ミジンコと茶化されるわりには力強く それがいつまでも続くと流石に痛いと背中を叩けばやっと解放された。


「せんくう、」

甘ったるい声で名を呼べば 噛みつくようなキスをされ器用に制服を脱がされていく。負けじと千空の制服に手をかけると左肩だけ異様に濡れているのがわかった。分かりやすくこう大事にされると胸にぐっとくるものがある、ーー風邪をひかないよう後でホットコーヒー淹れてあげようーー意識が目の前から遠ざかっていたのが面白くなかったのか 千空に頬や唇の端にちゅ、ちゅと軽いキスを落とされる。それが焦れったくて じわじわ体温が上がっていく。


「・・・・好きだ」

雨音で消えてしまいそうなほど切なげで小さな声だった。


千空の首根を抑え そのかさついた唇に自分の唇を重ねぐちゅりと下品な音をたてながら舌先を合わせる、息をつく間もないキスの応酬。たぶんわたしの方が好きだよ、ワンテンポ遅れた返事に千空は心底嬉しそうな笑みを浮かべた。


苛烈で純情


20201002
title by さよならの惑星


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