※石化前




何気なしにつけたテレビは深夜番組で人気なバラエティーで、今日は芸能人がオススメする新作コンビニアイスの紹介だった。画面に映し出されるアイス一つ一つに目を奪われ、反射的に出たよだれをすする。そういえば最後にアイスを食べたのはずいぶん前だ、同じようにテレビを見ていたゲンの腰にまとわりつくように腕を絡めた。

「アイス買いにいこーよ―」
「…俺もちょうど食べたいと思ってたんだよねえ」

優しく頭を撫でられるのは了承の合図。勢いよくゲンを見上げると軽やかに笑っていて嬉しさを伝えるために啄むようなキスをおくる。きょとんとした顔は年相応で可愛らしい。

ゲンはメンタリストとして活躍する芸能人だからパパラッチに気を付けることに越したことはない。髪の毛を全部入れて深く被った帽子に、ゲンの小さな顔に合わない少し大きいマスク、極めつけにごついサングラスを渡せばやんわりと断られた。――「これじゃあ流石に怪しすぎるよ」――確かに深夜にこんな客が来たら店員さんも怖がっちゃうな。サングラスだけ外して、私たちは意気揚々とコンビニに向かった。

深夜のひっそりとした住宅街に私たちの足音しか聞こえない。真っ暗な道を月が照らしてくれる、それがまるで世界に私たちしかいないみたいで、ゲンを独り占めできることがどうしようもなく嬉しかった。今日くらい良いかな、私より一回り大きいゲンの手をとる、ケアが行き届いている綺麗な手を確かめるように握るとゲンは力強く握り返してくれた。

「今日はやけに甘えん坊さんだね」

チョコレートを溶かしたような甘い声で囁いたゲンはどことなく嬉しそうだ。いつも我が儘を言わないようにしてるから、そのことに気を揉んでいたのだろう。そういう優しいところも大好きだなあ、好きで好きでたまらない気持ちが膨れ上がる。
コンビニまであともう少し、アイスを半分こして食べる未来に頬がゆるんだ。


はひふへホリディ


20200904
title by さよならの惑星


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