みんなが寝静まったのを確認したらひっそりと布団から抜け出した。街灯のない外は当然真っ暗で、夜目がきくまでじっと待ちながら鈴虫の合唱に耳を傾ける。そういえば夏の終わりをしらせる虫だと教えてもらったっけ。ストーンワールドで過ごす日々は目まぐるしく、季節が変わろうとしていることに実感がわかない。そう考えているとぼんやりと辺りが見えるようになり、浜辺に向かう一歩を踏み出した。


夜半のゼラチン


月に反射して輝く海は何度見ても美しい。朝昼晩と表情をかえる海の虜。月と星以外を飲み込んで、すべてを肯定してくれるような、包み込まれる温かさを感じて私は夜の海が一番好きだ。潮風が私の髪をなびく。べたつく髪の毛はもう、どうでもよかった。


「テメーはこんな時間になにしてんだ。」
「…それはこっちのセリフですけど。」

突然やってきた千空は素知らぬ顔で私の横に寝ころんだ。見上げるといくつもの星が瞬いている。目的は違えど考えていたことは同じらしい。私は海で千空は星を見にきたんだ。千空と同じようにごろりと私も寝ころぶ。さらさらの柔らかな砂が低反発マットレスみたいで気持ちいい。
石化前と比べるとずいぶんと星がよく見える。赤や青、それに白。たくさんの色で夜空を彩っている。きれい、と感じたことが口に出ていたみたいで千空は得意げに笑った。


「あの三つの星で夏の大三角形だ。他の星よか明るいって覚えときゃいい。」

千空先生に教えてもらう星座授業は有名な星座から始まった。気にも留めてなかった星々の名前が特別に思える。一つ一つ指をさしながら逸話と一緒に教えてくれる千空はとても楽しそうで、つられて私も笑ってしまった。


「石化前はゆっくり星を見ることなんてなかったから、今日千空と一緒に見れて良かったよ。」

何だか自分で言っていてキザなセリフだなあと千空の方に顔を向けるとばちりと目が合う。いつものようにバカかと言われると思いきや千空の顔はいたって真面目で、今更ながらこんな夜中で、拳一つ分の距離感にどぎまぎしてしまう。少し動くと触れてしまいそうな指先から熱くなる。


「俺もテメーと一緒に見れてよかった。」

波の音がさらってしまいそうなほど小さな声でつぶやいた千空は意地悪い顔で微笑んでいた。


20200825
title by さよならの惑星


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