※暗い




ゲンくんのそばは、息がしやすい。
明日のマジックショーの準備をしている背中に抱き着くと、「なあに」と甘い声でわらう。忙しい合間をぬって訪れてくれる彼に愛おしさがあふれ、回した手の力を強めた。
一緒につくる料理、チャンネル戦争をしながら見るテレビ、足を絡めて眠る夜、どれも私にとってかけがえのないものだ。会えなかった分を埋めるようにゲンくんにしては性急にベットにもつれ込む。好き、好き、好きだよ。私に落ちてくるゲンくんの汗すらたまらなく愛おしい。ぺろりと汗をなめとるとゲンくんは眉をしかめながらも、わらっていた。




何回かけてもつながらない電話に、何日も既読すらつかないメッセージ。私の世界が真っ黒に塗りつぶされたのは当然だった。
かわいいを集めたインテリアは全部ガラクタに見えゲンくんが好きだと言っていた料理も味がしない。披露することがなかった新色のコスメは埃をかぶってドレッサーに並んでいる。欠勤続きの仕事はずいぶん前に辞めた。真っ暗の部屋で一人佇む。仲睦まじそうに肩を並べ笑っている写真立ての中の私が、今の私をひどく嘲るように見えて許せなかった。どうして。なんで。いつ、わたしは間違えた?ばりん、割れたのは私の心かガラスか。それともその両方か。
足元には写真立てが割れたガラスと笑う私たち。行き場のない感情にまかせそれを何度も何度も、踏みつけた。足の裏に食い込んだガラスから滴る血が幸せそうな私を汚していく。

ゲンくんがいないと、わたし、生きていけないよ。


20200824
title by 溺れる覚悟


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