さらさらと日誌を書く。もう日が傾いてきた、最近までこの時間は太陽が顔を出していたのに。ぐっと冷え込むこの時期に冬が迫ってきたんだと悲しくなる。寒いのは好きじゃない。暑いのもいやだけど。早く帰りたい一心で日誌を書くスピードを上げる。しかしなかなか埋まらないノートに少しだけ腹をたてる。今日は特に何もない一日だったじゃない。向かい合わせで座ってるもう一人の今日の日直、新開くんが全ての仕事を終わらせて。暇そうに頬杖をついてこちらを見ている。私の字は中学の時にギャル文字を意識して書き続けたせいで崩れている、新開くんは男の子なのにすごく達筆で自分の字と比べてそうで恥ずかしい。早く帰ったらいいのに。さっき「帰らないの?」と新開くんに尋ねたらはっきりと「日誌が終わるまで帰らない」と言われたので変な緊張と焦りがふきだした。何というか、申し訳ない。


「おめさんの目はウサ吉みたいだな。」
「…ウサ、キチ?それってウサギ?」


久しぶりに教室が声で揺れた。その言葉に私はシャーペンの動きを止めた。ウサ吉という名前から連想されたのは、白い毛の目が赤いウサギのことだった。しかし私の目の色はカラーコンタクトでつくられた人工的なブラウンだ。くっきりとフチで囲まれたレンズは誰がどうみたってカラコンだとわかるもの。14.8mmのオニューのカラコンは私のお気に入りだ。ハーフ顔の化粧に挑戦してみたくて通販で買ったもの。大半には可愛いと褒められて、ほんの一部には直径大きすぎない?と苦い顔で言われた。しかしまさかウサギに例えられるとは思わなかった、これは褒められているのか、貶されているのかよくわからない。


「そう。俺が飼ってるウサギのこと。」
「へぇ、新開くんってウサギ飼ってたんだ。」

「…あんまり目を合わせないでくれるか。目が合うと苦しいんだ。」
「えっ、あ、ごっ、めん!」


ばちりと合っていた目を勢いよく日誌に向ける。ああそうか。新開くんはこのカラコンの不支持者のほんの一部の方に入るんだ。今日は日直だから話す機会が多くてよく目が合っていたはずだ。その度に新開くんは私のせいで嫌な気分をしてたんだ。一気に罪悪感がのしかかる。


「おめさんが悪いんじゃない。俺だ、全部俺のせいなんだ。」
「新開くん…?」
「俺の首絞めてくれ。」


ぐいっと腕を引っ張られ、私の手が新開くんの首に触れる。どくどくと脈を打っている彼は生きている。なにを言っているのか、されているのか思考が追い付かない。温かい首は私の冷たい指先のせいで徐々に冷えていく。手首を掴まれてるせいで私の手は新開くんの首を絞めている状態だ。こわい。脳が侵食される。おずおずと彼の顔を見る。ばちりと合う目、逸らせない。真剣に懇願する目、悲しそうな目、たまっている涙。


「カラーコンタクトってのは、見える世界も変わるのか。視界の色が変わるのか、?」


変わらないよ。同じ。一緒だよ。私がそう言うと彼のたまっていた涙がこぼれた。



20140203
泣き方を教えてよ


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -