休日が好き。学校がある日みたいに早起きしないで昼過ぎまで寝れるし、目覚ましが鳴る頃にベットに潜り込む。アイフォンをいじり倒して充電を何回も切れさせて、お菓子はずうっと食べている。朝ごはんは大好きなホイップクリームパンとメロンパン。昼ごはんはお母さんが作ってくれたチーズインオムライス。間食にポテトチップスのコンソメパンチに、みたらし団子。夜ごはんは何だろうなあ。
もし夕方の6時から始まる魔のバイトがなかったら最高の休日だったんだろうなあ。バイトは何の変哲もないハンバーグ専門店のファミレス。裏の顔はブラック企業。高校生は夜10時以降働いたらだめだから、忙しいときは退勤を押して働かされる。これが俗にいうサービス残業というものだと知ったのはつい最近のことだった。シフトは店長の気分でころころ変わるし、高校生だから元気だと勝手に決めつけられてばんばん入れられるシフト。そのせいで友達と遊べない。給料が入ったって使えないのだ。しかもわりと重労働なくせに最低賃金。最近知事のおかげで最低賃金が819円になったのが私の救い!一年あそこで働いてたけど私が手に入れたものってハンバーグがのってる重い鉄板を軽々く持てるようになったことぐらい。メールを受信したアイフォンの画面は明るくなる。時刻は午後5時。学校ではあまりしてこない化粧をする準備にとりかかるために重い腰をあげた。
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家に帰るとどたばたと音を立てながら階段を上って自室のベットに飛び込んだ。ぼふん、私の体重でも支えてくれる長年愛用してるベットが愛おしい。じわりと溢れるのは涙。くやしい、くやしい、くやしい。時刻は午後11時49分。今日はいつもより忙しかった。だから仕方なく退勤を押して10時を過ぎても働いてたのに。「早く上がりや。もうこっちはええから。」まるで邪魔者みたいに扱った店長。今日は忙しかったから店長もイライラしてたんだろう。でも、それは、酷いんちゃうん?くやしい。むかつく。店長なんて、−−−。同期の女の子と前に盛り上がった話がある、こんな店さっさと潰れてまえ。心の底からそう思った。ずうっと積もり積もったバイトへのストレスが涙となって溢れてくる。泣くとか、負けたみたいで嫌。それでも涙は止まることがなかった。ぷつりとおでこに出来た小さなニキビを思い切り潰してやった。
さ
し
い
遊
泳
おはよう、朝の義務。学校で交わされるその言葉は皆が皆言っていた。私もそれに参加する。おはよう。そこから次々出てくる話題。いつもと同じ。休日が、平日になった。昨日の一件のせいで思ったより気分が乗らない。はあとついた溜息はクラスメートの会話でかき消された。そんなところに一際目立つ髪色がぬっと現れた。
「おはよう。」
「おはよう、謙也。」
「俺昨日家族で夜お前が働いてるとこ行ってん。」
ごめん全然気づかんかった、と言えば謙也は忙しそうやったもんなと言った。昨日の忙しさを思い出すとずきりと二の腕とふくらはぎが痛む。鳴りやまないベルに止まらないオーダー、お客さんはずっとウェイティング状態。お客さんが帰ったらすぐにバッシング。私は顔に出てたのだろう謙也はお疲れさんと言ってがしがしと頭を撫でた。
「俺ずっとテニスやからバイトとかしたことないけど、ほんまに昨日のお前なんか凄かった!親にも俺のクラスメートやねんでって自慢してん。」
「なんやそれ、謙也って変やなあ。こんなん普通やで。」
「普通って言うのが凄いわ。あんなけ忙しかったのにずっと笑ってたやろ?しかもめっちゃ動き回っててスピードスターみたいやったわ!」
「スピードスターって、それ褒めてるん?」
「当り前や!化粧もしてていつもと雰囲気違うかったけど可愛かった!!」
どんっと胸を叩いてドヤ顔で言った謙也。でもみるみる顔は赤くなっていく。なにこれおもろいやん。しかし感染するように私も赤くなる。まず私のこと見すぎやろ、可愛いってなんやねん恥ずかしいわ。謙也は気まずい空間から逃げるように、「また食べに行くから、そんときはよろしゅう!」と言って颯爽と行ってしまった。さすが元祖スピードスター。もう彼の姿は見えない。でも謙也のお陰であのねっとりとした気持ちはすっとんで行ってしまったみたい。昨日頑張ってよかった。少しだけ前向きになれて笑みがこぼれた。
20131216