「いたくないんか?」
「なにが。」
「目。今日は青色じゃ。」


仁王の目を合わせて喋らないと覗きこんでくるところが嫌いだ。しかし今日のカラコンは青、ご名答だ。いつもはナチュラル意識の茶コンだが気分で青コンにしてみただけ。毎日カラコンしてる私にとって色を変えたぐらいでは全然痛くない。乾燥してるときだとか、カラコンの期限が迫ってるときぐらいしか痛くならない。そんなに私の目はやわじゃないよ。


「お前さんのスッピン、一度は見てみたいのう。」
「誰が見せるか。」


食い気味でそう答えると仁王はけらけらと笑って冷たいと言った。重い瞼にはアイテープをほどこしてクッキリ二重、目尻はお気に入りのブラウンライナーで少しはねさせて睫毛もライナーと同じ会社のブラウンマスカラをぬる。ベースメイクは丁寧に、かつ濃くならないように。チークはオレンジが好き。シャドーはブラウン系。毎日化粧に三十分以上はかけている。家から出るってことは、他人の目にふれるってこと。化粧は女の礼儀だ。その言葉を重んじてる私にとってスッピンで登校なんて、死ねって言ってるようなものだ。


「お前と俺は似てる。」
「どこが。あんたみたいに素行悪くないんだけど。」
「他人を騙して生きてることじゃ。」


何も言い返せない自分が悔しくて下唇を思い切り噛んだ。ぷつりと嫌な味が広がる。噛む力が強すぎて血が出てしまった。リップとグロスを重ねた薄ピンクの唇に赤黒い血の赤が混ざる。急いで鏡を見ながらティッシュで唇をおさえる。グロスでティッシュがひっつく感じが気持ち悪い。


「でもスッピンのお前を見たら俺は間違いなく嫌いになるのう。」
「どうして?」
「それは秘密じゃ。」


にやり、そんな擬音語が似合う笑みを浮かべ仁王はこの学校で一番可愛いと定評のあるあの子のところに行ってしまった。彼女は化粧なんかしないで生きていける顔の持ち主だった。荒れたことなんてないだろうきめ細やかな肌、ぱっちりとして黒目が大きい目、健康的な唇の色、長い睫毛。私が毎日何十分もかけて手に入れる顔を彼女は朝起きた時から手に入れている。ああ、考えることすら面倒くさい。みんな、死んでしまえばいいのに。


20131214
孤独の宇宙を渡る手段

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