サソリさんの真っ白、いや青白いと形容した方がいい顔色が好きだった。まるで死人みたい。死人をみたことないからわたしの想像だけど。
両親にどろどろに甘やかされて育ったわたしは欲しいものは何でも買い与えてもらった。外国製の青い眼をしたお人形さんも、ふりふりで細かい刺繍がほどこされた薄ピンクのワンピースも、お利口さんで血統書つきのワンちゃん。なんでも、なんでも、わたしに与えられた。度を越した両親のわたしへの愛は父の一家心中未遂で幕をとじた。借金まみれを苦にして一家心中、なんて恥ずかしい。わたし以外はみんないなくなった。母もペットたちもわたしの玩具も。両親にここまで育ててくれたことは感謝してるけど、大嫌い。わたしの顔に泥をぬったあの人たちが大嫌い。わたしがそこにあった椅子をいらいらに任せて蹴ってみた。がたん、大きい音を立てて倒れた。サソリさんはわたしを舐めるようにみている。大きくて丸い瞳がわたしをうつす。今のわたしの姿があのときの父と重なった。わたしの首を絞めようとした気色の悪い父にそっくりだった。
びちゃびちゃと音をたてながらわたしは床に吐き散らかした。ペースト状のそれは異臭を放ってわたしの嗅覚を刺激しまたわたしは吐く。悪循環。胃の中はからっぽだけど吐きたくてたまらない。苦しいけど吐きたくてたまらない。サソリさんはずうっと見ている。
「お前のその生への執着は気味が悪い。」
長い間伸ばしきったわたしの爪は汚かった。
20131214
沈む骨格