※天女様を傍観する人を傍観する話
天女様は空から降ってきた。いやあ、あれを生で見たけど素晴らしかった。食満先輩が華麗に天女様をキャッチして目がハートになるのに一瞬だったことがね、かっこわらい。徐々に天女様がその美貌を武器に学園を変えていった。皆目がおかしくなっていた、モヤがかかっているみたいな。骨抜きにされたのは五年生以外の上級生だった。なぜ五年生が天女様に惹かれないのかは―――、あの人の存在が大きな要因だろう。くのたまの期待の星の大好きな先輩。優しいし可愛いし、下手すればそこらの忍たまより恰好いい。しかも強い、らしい、わたしは先輩の戦闘姿を見たことないけれど実習は忍たまと一緒にしてるらしいから本当に強いと思う。今度先輩に手裏剣を上手く投げるコツを教えてもらおうって友達と最近言いあってたばかり。
そんな先輩も天女様が現れてから変わってしまった。忍たまの先輩達みたいな変化じゃなくて、こわーい変化。前までなら気軽に話しかけれた優しい雰囲気をまとってた先輩が、今じゃあどす黒いオーラを身にまとってる。天女様フィルターがかかってる人には見えない、こんな怖い先輩をどうして気づかないんだろう。でも、五年生が先輩の周りに集うときは、その黒いオーラは消えてなくなる。わたしは前の先輩に戻ったみたいで凄くうれしい。あ!わたしが見てるのに気付いて手を振ってくれた。五年生に一斉に見られて委縮してしまったけどお辞儀をしてわたしは逃げるように食堂から出ていった。
わたしは先輩を調査することに決めた。先輩は今天女様達を傍観しているけど多分そろそろ行動に移すだろう。これは女の勘だ。上手いとはいえないけど頑張って気配を消して先輩の後をつける。バレたらどうやって言い訳しよう。いやいや失敗を前提に考えるなんて駄目なくのたまじゃないか。これはわたしに与えられた使命、任務!そう任務だ!遂行するのだ。まだ先輩はわたしに気づいていない。五年生はいないから先輩には一層濃くなった黒いオーラがはりついていた。今底なしに機嫌が悪いんだ。ぴりぴりと頬を、全身を撫でつけるのは先輩から発せられる殺気。怖い、逃げたい、そんな気持ちを抑えて先輩を見つめる。あ!その部屋は…天女様の…。天女様御一行は今町に出かけている。また忍たまの先輩方は天女様に貢ぐのだろう。この前は潮江先輩に見るからに高そうで綺麗な簪を貰っていた。そんな天女様の部屋に先輩は入っていった。何を、するのだろう?一種の好奇心。わたしが天女様の部屋を想像しているときに先輩はそっと部屋から出ていった。一瞬のうちに消えた先輩に心底尊敬しつつ、そーっと天女様の部屋をのぞいた。うわあ、間抜けた声が出た。ぐちゃぐちゃになった部屋。布団は引き裂かれ、天女様のお気に入りであろう綺麗な髪飾りたちはへし折られ、色鮮やかな着物はびりびりに布団と同様引き裂かれていた。これは、誰かに言った方が良いのだろうか?もしや―――先輩が?いやいやそんなはずがない。だってあの先輩だもの。もしかしたら先輩が部屋に入る前からこんな惨状だったのかもしれない。うーんと頭をひねると、ぽんっと肩に手を置かれた。びくっと体を震わせる。決してわたしは気を緩めていたわけではない。それほどまで、わたしの肩に手を置いた人は気配を消すのがすごく上手いのだろう。もしかして…先輩?ぶわりと鳥肌がたつ。そーっと後ろを振り向いた。
「う、あ、っ!、その、」
「驚かせてすまない。」
「は、ちや、せんぱい。」
「ああ私のことを知っていたのか。小さいくのたまさん。」
こんなに小さいのに気配を消すのが上手かったと褒めてくれるのは五年生で変装名人の鉢屋三郎先輩だった。なぜ不破先輩と鉢屋先輩の区別がついたのかというとそれは簡単だ。女の勘、だ。間違ってなくて良かったと安堵のため息をつくと、鉢屋先輩は人差し指を立ててわたしの口元にそっと添えた。
「このことは、秘密、にしてくれるか?」
こくこくと必死に頷くわたしに鉢屋先輩はクスリと笑ってわたしの頭を撫でた。
曖昧メトロノーム
20120806
続けたいェ…