どろどろと溢れ出す、ねばりとした液体。興味本位で触ってみると、思った以上に粘り気があり気持ちが悪くなった。色や感触は違えど、わたしに流れる血と同じように、緑色の幼虫に流れていた血。指についたそれを舐めると何ともいえない味が口内に広がった。ん、しょっぱい。
「また、殺したのか。」
「さあね。」
竹谷の顔が歪んだ。例えるなら、そう、昨日わたしが踏み潰したてんとう虫みたいにグチャグチャ。ううん、それだったら、竹谷の顔の方が幾分マシだ。
竹谷はわたしが落ち枝でつつき殺したなんの虫か分からない緑色の幼虫を大切そうに布に包んだ。竹谷のこの生き物に対する愛情がキライだ。愛情より執着に近いかもしれない。キライキライキライ。わたしが殺す数時間前に竹谷はこの幼虫にエサをあげていた、言葉を囁いていた、愛していた。幼虫に尽くした竹谷はわたしのせいでそれが一瞬しにして泡となった。ふん、ざまあみろ。わたしが鼻で笑っても竹谷は何の反応をみせなかった。
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スキスキスキ。今の竹谷はダイスキ。大切にしてた生き物の死骸を見たときの歪んだ顔がだあいすき。今にも泣き出しそうって感じがとっても可愛い。
「何度言えば分かるんだ。」
「なにが?」
「 ふ、ざけんな、!」
ぐわっと鬼の形相で竹谷はわたしに掴みかかる。痛いなあ、でも気持ちいい。この一瞬は竹谷はわたしのことだけを考えてくれてる。憎まれてもいい、嫌われてもいい。もっともっとわたしのことを考えて、思って。竹谷の瞳が曇りだす。綺麗で光しか見えない瞳が、汚れていく。わたしの色に染まったみたいで嬉しい。ふわふわと高揚する。たけやあ、たけやぁ。だあいすき。
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竹谷は懲りずに新しい虫を飼い始めたらしい。蝶々みたい。でも変な色して気味が悪い。げろみたい。竹谷の熱い視線は変な虫にそそがれる。ああ面白くない。こんな虫、わたしが殺してあげる。ぱたぱたとわたしを馬鹿にするように見える動くそいつの羽を引きちぎってやった。りんぷんが手について指がサラサラになったけどそんなの気にしちゃいられない。ふふ、ばあか。何度も何度もそいつを踏みつける。こいつも声が出れば悲鳴を聞けるのに。面白くないなあ。
「そいつは遅行性の猛毒をもってるんだ。」
いつの間にかわたしの隣に立っていた竹谷はこの前の幼虫のときと一緒でもう原形がなくなったそいつを布にくるんだ。あれれ、足元がふらついてきたぞ?そんなわたしが隣にいるっていうのに竹谷は一切わたしの方を見ずに立ち去った。あの目でわたしを見ることなく、消えてしまった。たけやあ、たけやあ、!何度呼んでも竹谷は現れない。喉が焼けるように熱くなった。
20120807
あなたとわたし