「なに、やってんの。」


ひっそりとした教室に私の声が響いた。ただでさえじっとりと蒸し暑い教室は夕日も加わりサウナのようだ。そんな中、夕日のような赤い髪を持つ丸井ブン太が、カッターナイフで自分の腕を切り刻んでいた。遠目からでも分かるほど、赤い線が大量に引かれている。さぶいぼが立った。私は注射するところすら見れないほどなのに、リスカなんて見れるわけない。それなのに見てしまった。ふらりと立ちくらむ。ぽたぽたと溢れる血が瞼の裏に焼き付いた。


「なにって…リスカ?」
「それ、いつもやってんの…?」
「今日が初めて。いてぇな、これ。」


当たり前でしょ、と心の中で毒づきながら私は曖昧な笑みを浮かべた。血だらけの腕を見ないために私は丸井の顔を見る。丸井ってこんな顔してたっけ。青白くほっそりした顔。目に生気がない気もする。私が知ってる丸井ってどんな奴?必死に記憶の蓋を開けると、丸井の髪色に負けないぐらい明るい笑顔、テニスをしてるときの楽しそうな顔。今目の前にいる丸井とは真逆だ。


「俺が死んだらどうする?」


ああ誰かが丸井は変わったって言ってたっけ。片隅にあった記憶が蘇る。その時はそうかなと思ったけれど今ははっきりと頷ける。丸井は変わった。目の前にいる彼は丸井であって丸井ではない。きみはだれ。丸井は絶対に弱音を吐くような人ではなかった。底抜けにポシティブで、自己中。そんな丸井のことが好きだった、もちろん友達として。自己中さにはムカつくときはあったけど丸井のポシティブさには何度も救われた。それが、今は、なに。たくましくて遠く感じた丸井の背中は今は丸まっていてツンと押しただけで倒れそうなほど。


「そんなこと、簡単に言うもんじゃない。」
「…それもそうだな。」


弱々しく細められた目は寂しそうに見えた。



20120530
あなたも弱い人間だったのね

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