熱を感じる五題 | ナノ

熱を感じる五題
×要


1つないだ手

少しだけ開いた窓から涼しい秋風が吹く
そんなに寒い訳じゃない。かと言って過ごしやすい気候かと言えばそうとも言い難い

カラカラとその窓を閉めて鍵をかけた。戸締まりのチェックをする先生とか、普通いるものじゃないだろうかと不満を心の中で言って
ああ、そう言えば申請を受けた壊れた鍵、まだ放置してた。やべぇなぁ、なんて他愛ないことを思いながらオレは生徒会の雑務があったせいで遅くなりもう誰も居ない廊下を一人歩んで下駄箱に向かった。

「要」

下駄箱に着いた時、不意に声をかけられて顔を上げる
もう電気は消されていて暗くて顔は見えないが聞き慣れたどこか淡白な声、間違える筈もなくて

「祐希?こんな時間に何やってんだよ」
「待ってた」

サラリと言ってのけた祐希の一言に俺は驚きを隠せなかった
あの祐希が俺のことを待つ?かなり有り得ないことだ。
何か企んでるんだろうかとか思いながら相手に近付くと祐希は何を言うでも無く上靴を下駄箱に閉まって履き慣れたスニーカーに足を入れる
俺もその隣で靴を下駄箱から出して履きながら横目に視線を向けた

「…待ってたってオレに用事とか、あったんじゃねぇの?」
「別に」
「春たちは?」
「とっくに帰ったんじゃない?もう遅いし」

だから、その遅い時間にお前がわざわざオレを待ってた理由がわからないって言いたいんだ
口を開こうとしたら祐希は無言でオレの手を取って歩き始めた

「早く帰ろうよ」

何気無く繋がれた手。一瞬どきりとした。

…待て、いくら相手が美形な部類の奴でも幼馴染みでしかも男だ。ときめきとかそういうの有り得ない。
ふるふると首を横に振って話題を戻そうと漸く言葉を発する

「だから、何で待ってたんだって」

手を繋いでって言うよりは手を引っ張られてって感じになりながら相手の背中を見ながら言った
祐希は止まるでもなく、歩くペースを落とすでもなく

「一緒に帰りたかったから」

それだけ言った



…何だそれ
何だよ

オレは何も言えなかった。家に着くまで何にも。
祐希も何も言わなかった。
ただ握った手をぎゅっとされたから、仕方ないから握り返してやった




つないだ手が あつい




2抱きしめる

「要っちー寒い寒い寒いー」
「オレに言うな」

冷たい要っちの言葉にオレの心は更に冷えちゃうのよ!酷いわ!
…なんてノリも出来ない。のは、寒さのせいっつーより今の状況?
なかなか無い要っちと二人きり。って言うのが珍しく活動があるらしく面倒臭そうに向かっていった漫研のゆっきーに茶道部の春ちゃんたちも行っちゃって、即帰宅なのはまだ部活とか入ってないオレと今日は生徒会の仕事が無いって言う要っちだけって訳。
で、まあ、二人で帰路についてる訳ですが。

ちらりと横目で見ると眉間に皺が寄って随分機嫌がよろしくなさそうで(いや、眉間に皺は割りといつもなのか?)
それは寒さのせいなのかオレのせいなのか結構気が気じゃなかったりする

「……」
「……」

無言。なに、このイジメ的状況。
五人(もしくはメリー入れて六人)が二人になっただけでこの静けさ?
ゆっきーとゆうたんは元々あんま喋らないし、春ちゃんは意外に相槌が多いから別に皆がいなくても会話くらい成り立つはずだろ
ああ、でもゆっきーって要っちに対してはよく何か言って、それに要っちが怒って、皆がわーわー騒いでる

やっぱ全員揃ってこそなのかなー…とか考えてたとき

「…寒いな」

沈黙に耐えかねたのか白い息を吐きながら要っちがぽつりと呟いた

いやいや、さっきオレが寒いって言った時は怒ったくせに!
とも思ったけど、沈黙を破ってくれたことの方が嬉しくて

「じゃあオレがあっためてあげよーではないか!」

ガバッと抱き締めた。うわ、本当に要っちってば体冷えてる、冷たっ

なのに途端、要っちは顔を真っ赤にして、本当に林檎みたいに真っ赤にして、オレをふりほどいた

「バッ…道端でなに考えてんだ、馬鹿ザル!」

ふん、と足を速めて歩き出すまだ顔の赤い要っち
オレはその場で固まってしまった。


ドキ ドキ


(……あれ?)

何だこのドキドキ

相手はあれだよ?男だよ?要っちだよ?
間違ってもときめく可愛らしい女の子でもないすばでーなお姉さまでもないよ?

そんな思考なんてお構い無しにオレの脳内はさっきの赤い顔の要っちでいっぱい
心臓がバクバクとうるさい

何だ これ

「…おい?どうしたんだよ」

前の方からついてこないオレを不思議に思ったのか要っちの声が聞こえてかなり困った

要っちの赤らんだ顔にときめいちゃってました!

…無理、冗談にならない。マジでならない。


だってオレ、オレ…本当に

「っ…道端じゃなきゃ抱き締めていいの?」

口走りました。本当に何言ってんですか、オレ
今更遅い後悔と自己嫌悪に陥っていると先を行ってた要っちが戻ってきてオレにデコピンを喰らわせた

「痛っ」
「そんな寒いならマフラーとか、防寒しろよな」

…違うよ、そういう意味じゃなくてだね、要っち。
オレは寒くても暑くてもどんな場所でも要っちを抱き締めてみたいな、なんて思ったんだよ?
伝わらない想いをホッとしとくべきなのか悲しむべきなのか

「…風邪、引くなよ」

唐突な一言。その一言で心があったかくなりました。

(要っちがオレを心配してくれた)

こみあげる感情
ああ、ああそっか

「要っちー!!」

懲りずにまた飛び付いた、ほらいつものギャグっぽいノリで
そうしたら気付かれはしないでしょ、オレの気持ち



(要っちが好きなんだ)



3ふれていたい

「あら、祐希くん」

インターホンを鳴らし出てきたのは要の若くて綺麗でいつも通りにっこりなお母さんでした。

「あー…おはようございます」

…そもそも何で要宅に訪問してるかと言うと、今日朝、唐突にうちに突撃してきた千鶴がみんなでお花見したいとか言い出しまして
暇だしまあいいか、と悠太が春を、オレが要を呼ぶことになり
携帯に電話。出ない。じゃあ一応メール。やっぱり返信なし。
春は電話で応答があったため悠太と千鶴はそのまま春宅に行きお弁当作りをするらしい(お弁当はコンビニ弁当の予定が春の提案により手作りになりました)
で、オレは応答の無い要の家まで呼びに来たわけで

「要くん、まだ寝てるのよーごめんなさいね」
「…もう10時ですが」
「昨日遅くまで課題してたみたいでね、休みだし寝かせておいてあげようかなって。要くん頑張り屋さんだから…あ、でも起こしていいから上がっていって?用事があって出なきゃいけなかったから丁度良かったわ、ふふ」

要のお母さん独特のふんわりした空気に流され言葉も発せないまま家に押し込まれ入れ替わり要のお母さんは家を出て行った


伊達に長い付き合いしてるだけに勝手知ったる家の構造。迷うことなく真っ直ぐ要の部屋に向かう

これから起こすのはわかっているのだけれど中で人が寝てると思うと無意識に静かに扉を開けて中に入った
ベッドの上、そりゃもう健やかな顔で眠る要、熟睡。

「要」

とりあえず呼んで軽く揺すってみるが起きる気配はない

課題とかオレはまだ全く手をつけてないのに、本当に要は真面目だね
そんなことを考えながらぼんやり要を見ていて あ、と思った。何かいつもと違うなって思ったらそういえば寝てるから眼鏡が無いんだ
いつからだっけ要が眼鏡かけ始めたの…そんなことを考えて思わず要の目元に触れた

(……何してんの、オレ)

別にアレです。要はごくごく普通の男子です。
ほらよく漫画である「よく見ると意外に睫毛が長くてドキ」みたいなものがあるわけでも無くて、しかも見慣れた顔だから珍しいわけでも無くてでも、何故か触れていたくて
そのまま頬に手を移して指先で撫でるように触れる

「…ん…」

小さく身じろぐ要
起きるかも



でも、まだ、

ふれていたい



言い訳がましいなと思ってた「体が勝手に動いて」あれ、ホントなんだと今知った。気付いた時には要に顔を近付けて唇を寄せていた。
せめてもの救いはあれ、口じゃなくてほっぺたにって辺り。

顔を離して暫くしてから要がまた小さく唸って薄く瞼が開く。視線はまだ真上、天井
そのまま暫くぼんやりとしていた後に横にいるオレに気付いて驚いたように目を瞬かせた

「祐希?」
「……」

オレはと言えば、さっきの自分の行動の意味がわからなくてまだ思考が正常じゃなかった

なに、要にキスとかしてるんですか
ちょっと待って下さい、オレ

「おい、祐希。何か用じゃねぇのかよ」

傍らに置いてあった眼鏡をかけながら怪訝そうな表情でオレの顔を窺う要を見て漸く何とか口が動いた
何か普通に喋れるか、不安

「……千鶴が、花見しようって。怠惰な生活してる要は携帯出ないし、仕方ないから来てあげました」
「怠惰ってお前なっ…あーもう悪かったな、寝てて」

頭を掻きながらベッドから起き上がり支度すっからちょっと待ってろ、と言われて
そんな中もオレはやっぱりさっきの自分の行動。だってキスですよ、奥さん

好きな人にするものでしょ



…好きなわけ?オレ


自問ばっかして答えは一向に出てきてくれやしない。ああ、何だこの気持ち。



「悪ぃ、待たせた。行くぞ」

着替えやら何やらを済ませた要がオレに声を掛けてきて、オレは要の顔をじっと見た。

普通に、普通に対応しなくては。

オレと要は幼馴染みの友達。悪くて腐れ縁、よくても親友。
それ以上は無い。


気付き始めた自分の気持ちを抑え込んだ


「…行こっか」


どうかこんな気持ちなくなりますように



4熱に浮かされる

抱き締められた体
相手は幼馴染みだ

しかも男

もうこの時点で色んな意味で有り得ない訳だが、何故かふりほどけない雰囲気みたいなものがあって、オレは困っていたりする
あれだ、千鶴なんかがたまに冗談なノリで抱きついてきてうぜーんだよとか言うああ言うんじゃないんだ
何か、突然無言で後ろから抱き締められた。本当に突然。

なんなんだ今のこの状況は

「オレさ」

正常に稼動していないオレの思考が現状を必死に整理してるしてる最中、オレを混乱させてる張本人、悠太が声を出した

「好きなものとか、無かったわけですよ」
「…それが、なに」
「好きかなってのもジャケ買いしたCD1枚とかそんなんで、祐希みたいにがっつりとはまってるものとか全然無くて」
「だから、」
「でも見付けられたみたい」

ぎゅっと、抱き締められている力が強くなった
耳の近くで悠太の吐息を感じる
思わず背筋がぞくりとした。あんま、嫌な感覚じゃ無くて

「要」
「…んだよ」
「要の体温が、好き」
「体温って…」

オレ自身は関係ないわけか。内心小さなショックを受けながら後方の相手には見えないのがわかっているので眉をしかめた。

…いや、別にショックを受ける必要は無いだろ、オレ。

相手は幼馴染みだ
しかも男

自分に言い聞かせるみたいに頭の中で復唱した。
幼馴染みで男で小さい頃から祐希と一緒にオレをからかってばっかだったヤツ、

「要の熱に浮かされてます」

必死に頭の中で幼馴染みを繰り返してたのに悠太はそんな事を言った。

「……浮かされるって意味わかってる」
「虜」
「……」
「ついでに、」

悠太の言葉が途切れてすぐに首筋に柔らかい感触を感じる。

なんだこれ……、

暫く考えてから、触れたのは唇だ、と気が付いて慌てて相手をふりほどいた。振り返って悠太を見るといつもと変わらない無表情な顔で悠太は口を開く。


「要にも、浮かされてる」



5はなせない


やさしいぬくもり


その手は柔らかくて
その指は綺麗で繊細で

どきどきしました







みんなで騒いでいたら気付けばもう空には真ん丸な月が浮かぶような時間、急ぎ足で学校を後にしたボクら
でもボクは忘れ物を思い出して一人また学校に戻っていて。まだ閉まっていなかった昇降口にホッとしてそれでも走って忘れ物を取ってきた
それで、学校から出ようとしたら校門に人影が見えて

「…要くん?」

辺りは明かりも無くて暗くて誰だかはわからなかったのにボクは何故か思わずそう言った。
言ってから先に帰ってって言ったんだからそんなわけないのにって気付いて思わず苦笑を浮かべる。
でも、

「遅ぇよ」

返ってきた声はボクが望んだ声だった。

「どうしたんですか?」
「…お前一人だと危なっかしいだろ、色々」

いつもみたいなムスッとした顔でぶっきらぼうに言うけど、ボクのことを心配してくれたんだなぁって、勝手に口許には笑みが浮かんだ。
嬉しくてありがとうございますと口にすると要くんはどこか照れ臭そうに顔を背けながら何で礼なんか言うんだ、ってボクの手を取った。


「さっさと帰るぞ」


やさしいぬくもり


その手は柔らかくて
その指は綺麗で繊細で

どきどきしました



幼馴染みでもボクらはもう高校生で、男の子同士で手に触れる機会なんて無いからどきどきするんだろうか。

おかしいなって思いながら、それでも幸せな気持ちに満たされるボク


はなしたくない

はなせない


要くんの手をきゅっと握って、先を行く彼の背中を見ながらボクは一人静かに微笑んだ。




配布元→Colorful*





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