フィルター | ナノ

フィルター
祐×要



ぼんやりとした視界

ぼんやりとした思考


─…眠…


『誰の言葉もオレの中にまで届かない』

ふざけながら言ったあれは、あながち嘘では無かった。全てにフィルターがかかったようにはっきりと伝わってこないのだから。



(…あ…)

要、だ。
さすがに幼稚園から知っているとありきたりな黒髪の後ろ姿なんかでも間違えたりしない。
だって…要だし。

ゆっくり歩み寄ろうとした時、要の奥に誰かがいて話をしているのがわかった。

東先生だ。

最近、割とよく見る人。
要に何の用があるのか知らないけど、あれと話してる時の要は何かが違っていた、
何がって聞かれたら、さぁ、って返すだろうけど。

暫くぼんやりと二人を見ていて、話が終わったのか先生が要から離れた。それを合図にしたように足が勝手に動き出す。

別に意識してない、
ただ無意識の内に、

後ろから要の手を取った。

「わっ……祐希?何だよ」

高校生にもなって友達と手を繋ぐって言う発想が頭にないらしい要は酷く怪訝そうな表情でオレを見る。

何、って、
…知らないよ。

「……手、冷たい」
「は?」
「要の心みたいだね、冷え切っちゃって」
「なっ、お前なっ…」

いつもみたいにオレが悪態をついて
いつもみたいに要の眉間に皺が寄って、つり上がる眉
見慣れた要の怒った顔。

いつも通りなんだけど
それが今日はやけに腹立たしい

表情にも出ていたのか…と言うかオレは基本的に表情が出ないんだろうけど、
だからこそ長く一緒にいると僅かな変化で悟られる。

「…どうか…したのか?」

心配している、要の瞳が真っ直ぐ向いた。
さっきまでオレじゃない人を見てた瞳が。

どうかしたかって?
知らないよ、


自分でもわからない

わからない

わからない

わからない




気付いたら顔を近付けて

ちゅ

思ってたよりはっきり音がした

その音は恥ずかしさより切なさの方が強くて、踵を返して歩き出した。

後ろから要の怒鳴り声だけが追ってくる。

あぁ

きっと
オレは

声じゃなくて要自身に、追い掛けて欲しかった。

何するんだって、
目を見て言って欲しかった。

見て欲しい
オレを
オレだけを

自己顕示欲が強い子供のようだ。

(…でも、これは)


…要だから、なんだ。


フィルターのかかった世界

要の姿ははっきりしてる、
要の声ははっきり聞こえる、


何でって聞かれたら、さぁ、って答える。

これは認めるべきじゃないことだから
わからないふりをする
知らないふりをする

ただ
蓋を閉じるには

少しこの花は育ちすぎていたけれど



end




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