まるで幼子のように
ブレイク×オズ
両手足を大の字に広げつつベッドに身を放り投げたら位置がいまいち合っていなくて右手右足がだらんとだらしなく垂れ下がった。反動をつけてからごろんと左側に転がって身体をベッドに収める。
今日はブレイクがパンドラの仕事だとか抜かして(いや、仕事があるのはなんらおかしいことじゃないけど)オレはひとりぼっち。最近毎日一緒に居たからなんか変な気分だ。
横を向いた状態で身を縮める。膝を抱える。そのまま暫くじっとしていたら不意にふあ、と欠伸が漏れた。ふわふわしだす意識にまた欠伸。そろそろ意識を手放すんだろうな、なんて片隅の方で思いながらオレは気付いたら小さな寝息をたてながら夢の世界へ旅立っていたのだった
誰かが言っていた。丸まって寝るのはまるで胎児のようで、幼さが抜けない証拠なのだと。
目が覚めた時、室内はぼんやりと明るかった。しかし目の端の窓から見える景色は闇に包まれ暗く、今が夜でベッド脇のランプだけがついていることが理解出来る。そしてはっきりしない思考の中でもベッドの横に人が一人居るのがわかった。まだ丸まったままゆっくり顔を上げると愛しい彼の顔が目に入るんだ
「ブレイク…帰ってたんだ」
「ええ、先程」
そう言う彼の手元にある本は大分読み進められていて、しかし今まで読んでいたのを見たことがないものだった。推測するに、彼はその大分読み進められた本をここで読み始めたのだ。オレが寝てたから。
オレの視線に気付いたブレイクは一瞬目を丸くしてから少し困ったような笑みを見せて本を閉じた。
「オズ君には嘘が通じませんネェ、素晴らしい洞察眼で」
「まだなにも言ってないけど」
「言わなくても大体考えてることはわかりますヨ」
いつもみたいに笑うブレイクにオレは上目で見たまま、嘘が通じないのは一体どちらなんだか、と思ったが口にはしなかった。
「起こしてくれれば良かったのに」
「そんな赤子のようにすやすやと眠られては…ネェ」
赤子。子供扱い通り越して赤ちゃんだよ。苦笑をこぼすが今は怒る気にはならないし実際そんな感じの格好をしているのだから仕方ない
ちょっと体を捻りブレイクに向かって両腕を広げて伸ばすと彼は軽く首を傾げたからオレはへにゃって笑ってこう言った
「ブレイク、ぎゅー」
「…赤子の次は幼児ですカ、若干成長しましたネ」
「ぎゅーってして」
有無を言わさずもう一回言った。だってそう言う気分なんだからいいじゃないか。偶には誰かに…ブレイクに甘えたい。
いくら大人ぶってても寝相みたいな無意識の行動には子供っぽさは出てしまう訳で、どうせ出てしまうなら自分から出してしまえばいいと思う、心を許す人には。
ブレイクはヤレヤレ、と小さく呟いてから身を屈めてオレの体を抱き締めた。首に腕を回してくっつき合う体で感じる体温と鼓動(おと)。体温はオレの方が高いみたいで少しひんやりと。鼓動は同じくらいの速さなのに微妙に噛み合わない、オレたち同じ人間でも違うんだってわかる不思議。
頬を寄せて幸せの余りに自然と滲み出る笑みにブレイクがまた困ったように笑った
「本当に小さな子みたいですネェ…これじゃあ手が出しにくいじゃないですか」
少しだけ離れて額にちゅっと接吻を落とされる。優しい唇の感触がくすぐったい。そう言えばいつもならとっくに接吻をしててもおかしくないのにまだしてない。
なんか物足りない気がしてたのはそこだったのか。
「へー、ブレイクでも罪悪感とかあるんだー」
「アハハ、本当に君はムカつくガキだネー」
「…ムカつくこと言ってる口なんて塞げばいいじゃん」
じっと彼のルビーのような赤い眸を見詰めてそう言う。ブレイクは暫くぽかんとした表情をしてからおかしそうに笑って、それからこう口にした
「本当に今日は子供ですネ、おねだりなんていつもしてはくれない癖に」
滑るように頬に優しく手を添えられて甘い接吻を。今日初めてした接吻は深く優しくとろけそうだった。それから何度も、繰り返し。
その愛おしい温もりのせいでオレはまたとろんと意識が遠くなって、眠る本当に直前に朧気な中で一言だけ残した。
「ずっとこのままがいい」
それを聞いたブレイクが、優しくふわりと笑ったのは現実なのか、夢なのか、わからなかった。
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