言葉よりも大切なもの
エリオット×オズ
好きだ、愛してる、なんて人に重みを持たせるような言葉は軽々しく使っちゃいけない。
だけどこの言葉以外に今お前にオレの気持ちを伝えられる言葉が見当たらない。探した、探したさ!だけどねえんだよ、どの本を開こうとどの音楽を聴こうと行き着くのはあの二つの言葉だけなんだ。
でもその結果に一番抵抗を覚え驚きを感じているのはオレ自身だった。あのベザリウスの人間をそんな風に思える筈が無い。現にエイダ=ベザリウスだって女だし年上だからもう少し丁寧に扱ってやろうと思っても頭にベザリウス、の文字がよぎればそんな優しさも皆無となる
自分の物とは思えない冷たい眼差しを気付くと向けている。それだけベザリウスはオレにとって大きな壁であり檻だった
なのに、あいつは、あいつだけはなぜかオレの心の隙間に入り込んでくる。油断してたとかじゃない、あいつの嬉しそうな顔、泣きそうな顔、怒ってる顔、そう言うのを見てるとあいつは自然と心の内にいるんだ
気付けばあいつの笑顔を思い出してつい口許が緩む、そんな日ばかりなんだ
「どうしろってんだよ…」
「なにが?」
「…………あ?」
まるでリーオのように淡々と返されたがオレがリーオとこいつの声を聞き間違えるはずが無い。オレが振り返ると先程までリーオが膝を抱えるように座り込んで読書をしていた所には同じ様に座り込んで本に目を通してるあいつ、オズ=ベザリウスがいた
思わずこめかみを押さえた。オレは今までずっと悩みの種の隣でうんうん唸っていたのか。なんという。軽くショックを受けているオレを余所にオズは立ち上がりぱんぱんと床に接していた服の埃を叩いて、それからオレに近付いてひょこっと顔を覗き込んできた。それからふわっと笑う
「なにを悩んでるかは知らないし、それはオレが口を出すことじゃないのかも知れない。でもさ」
軽いデコピンを喰らってオレは額を押さえる。痛くは無かったがなんでデコピンなんかされなきゃいけないのか、オレは文句を言ってやろうと思った。でもそれより前にオズが口を開いた
「オレは顰め面のエリオットより余裕綽々に笑ってるエリオットの方が好きだな」
好き
オズはオレが言ってはいけない、言うべきじゃないと思った単語を簡単に口に出してしまった。オレは呆気にとられて暫くぽかんとしていたが小さく息を吐き出す
「オズ=ベザリウス。オレはベザリウスが大嫌いだ、片や英雄と称えられ片や裏切り者のように扱った今までを一生許す日なんか来ない」
「……」
「だから…お前がオズ=ベザリウスだなんて認めない」
「え…?」
オズの顔に緊張と不安と困惑の入り混じる複雑な表情が浮かぶ。オレは暫くそんな新しい表情を見てから、こう言った。
「お前はオズ。オレが愛してる、ただのオズだ。」
オズが好きだと言った笑みを見せれたかはわからないが余裕を持って自信たっぷりな笑みを浮かべてオズを抱き締めた。抱き締めたその体躯はオレより小さく腕にちゃんと収まりきった。オズは硬直していた、まだ何が何だかわかっていないようだ
だけどオレは漸く伝えられた想いに逸る気持ち、オズの遅い回転の脳みそを待ってる余裕はなかった。耳元で何度か好きだ、好きだ、愛してる。そう囁いて寄せていた耳元から流れるように頬、そして唇に接吻を落とした。
唇の接吻は柔く触れるだけのものから次第に甘く、深く。オズの口の中をオレの舌が犯してるのかと思うとぞくぞくと身震いした。その頃漸くオズの頭の中で整理が済んだようで頬から耳にかけてを朱に染めて、それでもやっぱり動かなかった。申し訳程度に服の裾を引っ張られる。可愛い、と思った、男相手なのに、粋狂だ。
暫く接吻を続けてオレが気が済んで唇を離すとオズはくたぁっとオレに凭れ掛かって来た。慣れない深い接吻に力が抜けたらしい。オレに寄り掛かっているオズを見ながらうずうずしてしまう。
ああ、なんでこんな可愛いんだよばーか。
ギルバートがオズの従者でありたいと固執しているのも頷ける。
いや、固執してるのは、最早ギルバートだけでは無いのか
「好きだ、好きだ、好きだ、好きだ、好きなんだ。愛してるんだ、」
まるで呪文みたいに何度も繰り返す。答えを聞くのが怖くて。胸に顔を埋めさせるように抱き締める。顔を見るのが怖くて。
でもそんなオレに気付いたオズは至極簡単な答えをくれた。
そっと、背中に腕を回す、そんな答えを
オレは思わず涙が頬を伝うのをぎゅっと抱き締めることで隠した
end
愛してるんだ
こん汰さんへ相互記念