煙草の煙を燻らせてベッドに腰を掛けた。暖房をつけているとは言え、素肌に冬の風は少しばかり冷たかった。大きな窓から見える夜景は確かに綺麗だったけど所詮はただの人工の光でしかない。生憎そんなものではしゃげる歳でも性格でもない。人工衛星と飛行機の光る夜空などなんの価値もないに等しかった。男は私がそこにいるものだと思って幸せそうに眠っている。今日もハズレだった。声を上げれば調子に乗って律動を上げる、面白味の欠片もない行為。次はもっと楽しめる男を引っ掻けたいなぁ、と紫煙と共に溜め息を深く吐いた。
最初は酔った勢いでだった。毎日の生活に疲れてでもどこか充実感も足りなくて、一人飲んでいるとそこで意気投合した見ず知らずの男と、そのまま。世間一般的にそういうのが悪いとはわかっていた。それでもなんとなくやめられなかった。それからそんな生活がずっと続いている。誰かを引っ掻けて、ホテルへ行って。こんなことで満たされるとは思ってなかった。実際、今も退屈なままだ。それでもやめられないのはその行為にいつか終わりが、心が満たされる日が来ると思っているからであって、性的欲求に流されている訳ではない。断じてそうではないのだ。悪女だの魔性の女だの呼ばれたくてやっているのではない。仮にそう呼ばれていたとしても男は寄って来るのである。砂糖に群がる蟻の様に。
再びシャワーを浴び終え、床に落ちていた服を着て私はホテルから出る。終電など等の昔に終わっているので大通りまで少し歩いてタクシーを拾った。都会は楽だ。こんな夜中でも真っ暗にはならない。交通手段だって完全に断たれるわけじゃない。知らないうちに携帯に入っていたメールを見て、運転手に目的地を告げた。
お釣りは要らない。そう言うとタクシーはさっさと私を置いて走り去った。目の前にある大きな門を我が物顔で空け、チャイムを鳴らした。使用人はもう自分の家に帰って寝ているのだろう、家主直々に玄関を開けて出迎えられる、歓迎されている訳ではなさそうだけども。
「…こんな時間に…」
「まぁまぁ、ちょっと付き合ってよ」
ブツブツと文句を言いながらも鬼道くんは毎回朝まで付き合ってくれる。酒を飲んで仕事の愚痴を聞いてもらったら少しだけ気持ちがスッキリした。これでシスコンでさえなければ良物件なのに。
「…いい加減やめたらどうだ」
「なんのこと?」
「…いや、なんでもない」
ただ、少しばかり感の良いところだけはいただけないな、なんて。
苦いだけのチョコレート