隣の席の神童くんはとてもやさしい。
ドジな私を何かと気にしてくれて、教科書を忘れた時は見せてくれるし、失敗して落ち込んでいると気にするなと励ましてくれる。日直で黒板を消している時も手伝ってくれて身長の低い私が届かないところも消してくれるし、お昼にデザートの桃をおすそ分けしてもらったりなんかもした。やさしくされて惚れるなと言われる方が無茶な話で、事実、私は神童くんに現在進行形で片思い中である。


―――そんな私は今、廊下で盛大に転んでおりまして。
廊下いっぱいに散らばったノートにお前はやっぱりドジだな、と嗤われている様で少しだけ視界が滲んだ。すぐに拾う気にもなれなくて、でも先生に届けなくちゃいけなくて、座り込んで項垂れて溜息をついて立ち上がって。それからやっと、一番近くにあったノートから拾い始めた。大体のノートを拾い終わってあと一冊。というところでそのノートが誰かの手の中に。



「こんなところにいたのか」
「…しん、どう…くん」
「なかなか帰ってこないから心配した」



笑ってそれから、ほら、貸せ。と言って私の腕の中にあったノートを軽々と全て持っていってしまう。あぁ、かっこいいなぁ。と思うのと同時に胸がぎゅっと苦しくなった。やさしくしないでほしい。と言ったら嘘になるけれど、バカな私は期待してしまう。神童くんがやさしくするのはなにも私だけに限った話ではないのに。なかなかやってこない私を見て不思議に思ったのか、「どうした?」と神童くんが足を止めた。


「……私ね、神童くんにやさしくされる権利ないよ」
「…え?」
「私、神童くんのこと好きだから、やさしくされると嬉しくなっちゃってもっとやさしくして欲しいなって思っちゃうの。自分でも最低だなって思う。」



そういうと神童くんはきょとんとして、それから声を上げて笑い始めた。



「え」
「…あぁ、悪い。別にななしのことを笑ったわけじゃないんだ、ただ、」
「ただ?」
「もしかしたら、俺に下心があるなんて考えはなかったのかな、って」



私はいまいちその言葉の意味が呑み込めなくて、ぼーっとしながら頭の隅っこでバカみたいにいたずらっ子のような表情をした神童くんも素敵だな、なんて考えていた。



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