まるでバケツをひっくりかえした様だ。
そんな雨の日にも関わらず、彼は飛び出していってしまった。



―――



「立向居くん、なんか元気ないね。」
「え?そっ、そうですか?」
「練習の時もぼーっとしてたし、食欲もあんまりなかったみたいだから。」



廊下で一人歩いてるところを発見して声をかけるとどうやら図星だったようで立向居くんは黙ってしまった。



「何かあった?」
「…えーっと、あの、」
「?」
「…本当に、俺はこのチームの役に立ててるのかな、って」



最近、考えちゃうんです。
段々小さな声になりながら、彼は苦笑いでそう言った。



「…どうして、そう思うの?」
「え?…っと、それは、」
「立向居くんは選ばれたんだよ。選ばれるだけの何かが立向居くんにはあるんだよ。」



手のひらにできたマメも、膝小僧をすりむいた痕も、今まで流した涙も、立向居くんの努力の証で、みんなからの信頼の証なんだよ。立向居くんがわからなくても私は立向居くんが頑固で、人一倍がんばり屋さんで、素直ないい子だってこと知ってるから。困ったり悩んだりした時はみんなを頼っていいんだよ。一人で頑張らないで。そりゃあ私は確かに頼りないと思うけどさ、他にもいっぱい仲間はいるわけだし。



「…だから、自信持って。」



頭を撫でると彼は少し泣きそうになって、それからいつものようにふにゃりと笑った。



「俺!今からちょっと練習してきます!!」
「今は雨が…」



私の制止の声も聞かず立向居くんは走り出す。
すぐに少し止まって「ごんべさん!ありがとうございました!」と礼を言うとその姿はもう見えなくなった。



真っ直ぐで一生懸命な彼にどうかよいことがありますように。
温かくて大きな背中を思い出しながら私はそう願った。




嗚呼、君よ。勇気あるものよ。

song by The Bravery
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