「………」
「姫よ、何をそう思案顔をしておる?眉間に皺が寄って三成と瓜二つよ」
「……刑部様」
「ぬしがそのようでは三成がまた騒ぐ。厄介払いなら下々の者に任せよ」
「…そう、ですね」
「何かあるのなら、言って聞かせよ」
「……そうですね、刑部様に…なら、」
「おお、言うてみせ」
「佐吉君を見ていると、時々思うのです。過去に拘る彼では、豊臣の名を継げぬのでは、と」
「………」
「兄様や半兵衛様は、強さを尊び過去を捨て去り、常に未来を目指して歩んできました。それに付き従う私も、そうあるように生きてきました。実際、今まではそうでした。……でも、」
「…でも?」
「私も、兄様亡き今、兄様の作り上げたこの豊臣という箱庭の中でしか生きられぬ、脆弱な人間だということを嫌というほど思い知ってしまって。…私は、兄様の遺したものに縋って生きるしかないのです。…それでは、過去に縋って生きる、弱き者たちと何も変わりがないではありませんか」
「………」
「………それに、兄様が、最初に捨てた、…ねえさまを、愛という感情を、私は…私は……っ、」
「………」
「自分の、その感情のために、佐吉君を生かすために、私は、今、天下など捨ててもいいと、日の本の未来など、他人にゆだねてしまってもいいと、そう思ってしまっているのです……、これでは、豊臣は、兄様と半兵衛様の夢とされた、豊臣の強さは、……っ、にいさまの、りそうは……っ、」
「……姫、」
「……申し訳、ありません、刑部様、」
「よいよい、気に病むな」
「……人の心とは、うまくいかないものですね」
「…誠、ぬしの言う通りよなァ」
割った茶碗を接いでみる