黄昏時の電車内。
私の肩に当たるのは、隣で眠ってしまったあのお方の御髪。
一日中歩き回ってお疲れになったのだろう。
しかし、こうして姫様が私に身を預けた今の今までそれに気付けなかった自分が憎い。
久方ぶりの逢瀬に、柄にもなく浮かれてしまっていた、という事だろうか。
実に、情けない。
自責の念に駆られたが、ここで声を出したり身動きをとったりすれば、姫様の眠りを害する事になる。
そうならないように、膝の上で手を握りしめ、じっと堪えることに専念した。
しかし、五感というものは実に厄介で、いくら集中しようとて、微かな寝息や密着した肩、柔らかな御髪の香りを感じてしまう。
意志とは逆に、自分の中で高ぶっていく情動に歯噛みをしつつ、姫様がお目覚めになられたら、この失態と燻りとの許しを請う許可を願おうと、そっと心に誓った。