「キスしたくなる唇!」なんていう広告に釣られて、新発売のグロスを買ってしまった。
折角だから、使ってみることにしたけれど…DIOさん気付いてくれるかな。
そわそわしながら何時ものごとくDIOさんを起こしに棺の前へ。
「DIOさん、もう夜ですよー。起きてください」
「ン…そうか、やっと私の時間が来たか………、」
棺から顔を出し、そのままの体勢でこちらをじっと見つめてくるDIOさん。
もしかして、気付いてくれた?赤い瞳に釘付けになる。
早くなる鼓動に比例して期待と不安でいっぱいになった、その時。
ぷつん。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
気がついたら、DIOさんの腕の中にいて、唇に小さな痛みを感じていた。
キスされた、否、噛みつかれているようだ。
嘘、ちょっと待って、これは予想外。
段々深く突き刺さる牙に、涙が零れた。
抵抗しようにも、無理に動いて更に傷を深くしそうで、大人しくしているしかなかった。
痛みに耐え、ぎゅっと目を瞑っていると、スッと牙が引き抜かれた。
安心して目を開けると、まだ近くにDIOさんの顔が。
目をそらす前に、私の唇をぺろりと舐め、DIOさんは満足気にニヤリと笑った。
その表情にドキッとしたけれど、痛かったって、ちゃんと抗議しなきゃ。
「い、痛かったじゃないですか!酷いですよDIOさん…!」
精一杯睨んだつもりなのに、DIOさんは更に笑みを深くする。
それどころか、悪びれもせず「貴様が噛みつきたくなるような唇をしていたので、つい、な」だなんて。
…気付いてくれてはいたみたいだけど、思っていたのと違って何か複雑だなあ。
ちょっとだけ、可愛いとか、褒めてもらいたかっただけなんだけど、なあ。
まあ、そうだよね、そんなに簡単に思い通りにはならないよね。少しだけ、落ち込む。
DIOさんに抱きしめられたまま、俯いて目を逸らす。
そんな気持ちを知ってか知らずか、DIOさんは無理矢理私の顎を掴んで自分に向き直らせる。
「…な、何ですかDIOさ、」
咄嗟に口から出た言葉は、言い切る前に塞がれてしまった。
今度は、牙ではなく、唇で。
最後に態とらしくリップ音を残して離れていく。
また、ニヤリと笑ってDIOさんが言う。
「…この唇は、私の気を引こうと彩ったのだろう?実に愛らしいじゃあないか」
…えっ、もしかして、最初から気付いてて…?そんな、私ばっかりからかわれてたの?DIOさんの意地悪!
抗議しようと意気込んだ、直後。
「そんな貴様の望み通り、次は優しくキスしてやろうと思ってな」
って悪戯っぽく笑うDIOさんがいて。
何も言い返せなくなってしまった。
我ながらDIOさんに甘すぎるなあって思うけど、それほど大好きな人と一緒にいられる幸せの方が大きくて。
DIOさんに身を任せ、目を閉じた。