序章 私の記憶

幼い頃から家庭は崩壊していた。
私の家族は皆ボロボロだった。父親の暴力、それに怯える母の顔。迫られる私たちの生きる選択。
たった1人私を支え、共に暮らしていたのは、
双子である一虎だけだった。


「んへへー、ごめんなさぁーい」

時刻は朝の10時、私は学校へ来ていた。
普段から遅刻の私はいつも通り職員室で担任と話をしていた。正直言って来ただけでも偉いと思ってる。

「羽宮、入学からこれで何度目かわかってるか?」

少し呆れた顔をした担任が私と目を合わせると頭に出席簿をポンっと置いた。

「いでッ」
「お前なぁ、起きれないなら兄さんにでも起こして貰えばいいだろ。あいつはちゃんと来るぞ朝は」
「だって起こしてくれないんだもーん」

私の返事にはぁとため息をつく担任は次はないからなといい、職員室を一緒に出た。
 私はいわゆる遅刻魔という部類の厄介な生徒で担任も手を焼いているようだった。そんなの無視したらいいのに。ちゃんと教室へ向かうか心配な担任は隣で一緒に歩いていて、教師と一緒に廊下を歩いているもんだから教室から廊下を除く生徒は変な顔をして私を見ていた。自身の教室が近くなると安心したのか担任はそのまま職員室の方へ戻って行った。
 
「あれ?龍姫じゃん。何、今起きたの?」

自身のクラスに入ろうとしたら隣のクラスから呼び止められる声がした。一虎だ。

「ねぇー!!にぃにさぁ、学校行くなら起こしてよね。私また先生に怒られたよぉ」
「それ、お前が悪くね?」
「いや、起きれないんだから起こすのが普通」
「理不尽極まりねぇ女だな」

授業中でもお構いなしに教室に出てくる一虎は似合わないパンチパーマに首元にある虎のタトゥーと動くたびに鈴の鳴るピアスをつけ、いかにも不良ですよらしさを出していた。

「こらー!羽宮くん!授業中なんだから教室に戻りなさい!羽宮さんも!自分のクラスに戻る!」

一虎のクラスから聞こえる先生の声にはーいと返事をして戻る。
 一虎はあんな容姿ではあるが、勉強もできるし人間味のあるいいやつ。
 クラスの違う私は隣の教室のドアを開けて大きな声で挨拶をした。一応、遅刻はするが礼儀はしっかりしてる方なので先生からの評判は良くも悪くも元気な子で収まっていた。クラスの子にはお兄さんがイケメンだという理由で集まってくる友達も中には少なくなかったし、一軍と呼ばれるような人たちには何かとチヤホヤさせてもらっていた。周りから「また遅刻かよ」や「おはよー龍姫ちゃん」の声が聞こえて、全部に返事をしてから自分の席に座った。

 

 授業も終わり、ホームルームを済ませて帰る頃には教室の前に一虎がいた。基本的に帰りは一緒で、気分で寄り道をして帰る。

「今日!マイキーが遊びに来いって言っててさ!俺このまま渋谷二中行くけどお前くる?」
「ん?ニ中は三ツ谷のところでしょ?なんでそっち?」
「合流合流ー、三ツ谷もいるんじゃね?」
「三ツ谷いんの?!三ツ谷いるなら行くー」
「三ツ谷がいたら来んのかよ好きじゃん」
「えー?三ツ谷は好きだよー」
「そうじゃねぇし…」

私を見てため息をつく一虎はもうその話はどうでもいいと私を置いて歩き出す。
私は首を傾げそのまま一虎の後を追った。
 渋谷区域内住む私達はよく集まって遊んでいた。
マイキー、ドラケン、三ツ谷、パー、それと場地。私と一虎は、小学生の頃から2人で行動することが多かったけど、すこし前くらいに場地と仲良くなってそこからマイキー達に出会った。友達を作るのが苦手な私にとってはとても頼もしい存在で、これも全部場地のおかげなんだなと思った。あの5人の中でも私は、マイキーという人物を特別視していた。いわゆる憧れってやつ。それは一虎も同じで、いつかマイキーみたいになりたい、とそう思った。

「お、一虎ァ……と龍姫もか?」
「よ!たっちゃんもついて来たー、おつかれ!」

校門前で待っていたのはドラケンと場地だった。
どうやらマイキーは三ツ谷達を迎えに行ったらしく、走って校内に向かったという。

「えーー!!!!他校ってそんなずかずか入れんの?!」
「マイキーはそういうやつ」
「しょうがねぇよ、だってマイキーだもん」

そっかマイキーはそういうやつか。なんて話していると校舎から三ツ谷とパーが出てくるのが見えた。

「………あれ?マイキーは?」
「あ"?………ってガチじゃんいねぇ」
「はぁぁぁぁ?!俺探すの無理パス」
「俺も」
「右に同じく」

三ツ谷達が校門前で集合するなり入れ違いでマイキーは戻ってこなかった。結局ジャンケンで場地が探しに行ったんだけど、戻ってくる頃にはなぜか場時の背中でマイキーが寝ていた。



▽▲▽




「ったくよぉー、マイキーが遊ぶとかいうから集まったのにこれじゃあなんもできねぇよ」

場所は変わってファミレス。とりあえずマイキーを永遠おぶるは勘弁だということで休憩できるところに入っていった。

「そーいや、一虎と一緒ってことは龍姫学校行ったの?」

私は4人掛けのテーブルに三ツ谷とパーと一緒に座っていた。向かいに場地マイキードラケン一虎。

「うん!10時位には行けたよー!楽しかった」
「そーか、それで?授業は?」
「ううーん!聞いてない」
「ダメじゃねーかよ」

今日の話を三ツ谷としてる中、パーは隣でバクバクとステーキやらぱふぇやらを食べていた。給食食べてないのかな…と隣をじっと見るが、向かいから気にしたら負けだと三ツ谷が言った。

「なぁ、この際マイキー置いて遊びいかねぇ?」

パーがステーキを口に詰めながら話し出す。

「俺らだってそうしたいのは山々なんだよ」
「でも本当起きねぇよなぁー」

ペチペチと一虎はマイキーの頬を叩く

「おいって、おまッやめろよな」

場地が焦る中一虎は面白くて何度も繰り返す。すると目をパチパチさせマイキーが目を覚ました。

「あれ?けんちんどこ?」
「ファミレスだよ、おまえどーすんのこれから」

ドラケンはマイキーの目の前にメニューを置き聞いた。その場にいた全員がどうせお子様ランチなんだろうなと思いながら話を聞くが、今日はそういうことではなかったらしい。

 どうやら今日みんなを集めて遊ぼうと言ったのは黒龍(ブラックドラゴン)というチームの話だったようで、そのチームは私の住む方の地域で暴れてる暴走族だった。以前から私と一虎はなにかと黒龍から目をつけられていて、下っ端のような人達に絡まれることがよくあった。

「で?なんで言わなかった」
「別に…いう必要もねーだろ。今回は俺がボコったんだし」
「そうじゃねーよ、俺たち仲間だろ?」
「……ごめん」

少し真面目な空気にみんながピリつく。今回は本当に何かあったわけではないから、特に釘を刺すわけではなく、何かあったら言えよというマイキーの優しさだった。正直言うと、一虎が喧嘩をしたのは私のせい。基本的に私のせいなのだが、それについては特に言わなかった。
腹立つ奴がいたから私が先に手を出したのが原因で、一虎は悪くなかった。一虎は何も言わず、お前は悪くないと言ってくれた。
ただそれだけの話で集まった皆は、マイキーの飯食おうぜでその空気が和んだ。

皆はそのままファミレスでゆっくりしようと言った中、三ツ谷が妹の迎えで帰ることになった。1人だけ帰るのはかわいそうだなと思った私は、一緒に行くと言って先に出て行った。
ファミレス内で場地が私を指差して一虎に向かって何か言っていたがよく聞こえなかった。まぁ、後で聞けばいい話か、私はそのまま三ツ谷を追った。

「別にいいのに、龍姫まで来ることなかっただろ」
「いいよいいよ!龍姫基本暇してるから、一緒行こー」

三ツ谷を引っ張って私は妹のいる幼稚園まで向かった。

「あー!またたっちゃん!」
「こんにちはー。おかえり!」
「すみません、いつもありがとうございます」

私は三ツ谷の妹と戯れあって先生と喋る三ツ谷を待った。正直三ツ谷はかなり大人だと思う。三ツ谷が普段やっていることをやれと言われたら100%できないと思う。そんな事を考えていたら後ろにいた人にぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさい」
「んー」

そのままだるそうに幼稚園の方へ歩く人。なんだよ、謝ったんだからもう少しなんかあればいいのになんて思って向こうを睨んだ。よく見ると髪の長い三つ編みで後ろ姿だが綺麗な人なんだろうなと思い、今回はしょうがないとそのまま三ツ谷の方へ戻った。
向こうも話が終わっていたみたいでそのまま帰る。三ツ谷は歩きながら携帯を見て「やべッ」と言う。

「どうしたの?」
「一虎からだよ、多分お前じゃね?」
「え、私に電話すればいいのに」

と、私は携帯を見た。うげぇ、見ると大量の不在着信、全部一虎だった。私は基本的にマナーモードにしているから全然気づかなかった。

「はぁ、兄貴も大変だなぁ」
「ん?なんで?」
「ん、あぁ…メール来てた、今日もう帰れよ龍姫」
「え?!三ツ谷ん家まで行こうとしたのに!」

私はガックリと肩を落とし三ツ谷をみる。

「そんな事しても無理だな。一虎心配してるしまだ明るいうちに帰れよ」
「うぅ…わかった。じゃあね三ツ谷、じゃあねマナちゃん」
「うんー!バイバーイ」
「お疲れ、また近いうちにあそぼーぜー」

うーん!と言ってその場を離れる。なんなんだよ一虎のやつ、別にそんなに心配することもないでしょうが。私はぐちぐち言いながら家に帰った。



「ただいまぁー」

ガチャと家のドアを開けリビングへ向かった。ドタドタと一虎の部屋から音がしてリビングに飛び出して来た。

「うわッッ?!?!なになに何なに!やば、なに?!」

一虎は私をジロジロと見るなり急に「襲われた?!?!」「元気か?!」「顔は?????」と意味のわからない事を何度も連呼していた。

「はぁ?なにが」
「いや、場地のやつが………あ、なんでもねぇ」
「え?!なに?場地がなんなの?!」
「なんでもねぇよ!………あぁ"そこ、母さんが弁当置いてってる、適当に食べろよ」

そう言って自室に戻る一虎。

「え?!?!ちょッッなに?なんなの?」

私はポカンとそのままリビングに佇んでいた。え、なに本当に。意味わかんないわ。私はテレビの方にあるソファに座って携帯をいじる。何時間もすればお腹も空いてお弁当食べるだろうなと思って、そのまま眠った。


場地の話、なんだったんだろう。すごく気になったけど、また今度聞けばいいか。





















※※※



「おい、いいのか一虎」
「はぁ?何が」
「龍姫だよ、あいつ三ツ谷といかせんの?」
「いやいいだろ別に、あいつの自由だし」
「いやそうだけどヨォ…」
「……そういえば三ツ谷、龍姫の事気になってる的な事言ってなかったか?」
「…………ドラケンそれガチ?」
「ガチ(嘘)」
「え?!やばくね?龍姫やばくね?」
「ん?てことは三ツ谷は一虎がすきなの?」
「はぁ?なんでそうなんだよ」
「だって顔同じじゃーん、ケンちん俺双子は無理だぞ」
「………はぁ」
「……………」
「おい、どうした一虎…」
「………まてまてまえまてまて?え、待って?龍姫は三ツ谷が好きで三ツ谷は龍姫がすき?で俺の顔も好き…?え、待って待って待って情報が完結しない。え?俺は?俺……お兄ちゃん。俺、俺………」
「おいマイキーッ余計な事言うなよ!ヤベェよこれ」
「ドラケン俺1人じゃ無理だッ来いって」
「たく、これだからシスコンは良くねぇんだって」
「どーでもいいけど、そのパフェ食っていい?」
「「パーッッッお前も手伝え!!!!」」



序章 ずっと一緒。 to be continued

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