幼女取扱注意




「見て見てー!可愛いフリフリのお洋服だぁッ!」

そうきゃっきゃしながら俺の横を歩くのは歳のわりに発達が少し遅れたクソガキ。名前は知らない。街を歩くとショーケースを覗き込む、今やつが見ているのはガキじゃ到底着れないような大人の服だった。

「お前じゃ着れねーな、兄貴待ってるから早く行くぞ」
「んぁ、リンドーいじわる」
「意地悪じゃねーよ、事実だろうが」

たく、誰だよ銀座になんて集合させたやつ。……兄貴しかいねぇんだけどさ。
 街並みは港区とあまり変わらないそこはガキを連れて歩くような場所でもなく、すれ違う人だかりに飲まれないよう奴を気にかけながら歩く。
 能天気に歩くコイツとは3週間前に出会ったばかりで、正直なんで連れて歩かなきゃ行けないのか理解し難かったが、兄貴がなんやかんや気に入ってしまったので文句も言えるはずもなく、ただひたすらに時間が過ぎていった。

「お、にぃちゃん」
「らんちゃーーーーッ」

ちょっと歩けば離れたところに兄貴が立っていて、あのガキは走って向こうに駆け寄った。寄ってくるアイツを抱き上げるとそのまま俺のところまできて「遅えじゃん」なんて言う。

「いやいや、兄貴が先家出んのが悪ぃって」
「2人の支度とか待ってらんねー、ちょっと暇つぶしに家出るだけで時間かかりすぎなんだよ竜胆は、なぁー?お姫様」

お姫様と呼ばれるととても喜んだ顔つきでなぁー!っと返してきた。正直、兄貴に置いて行かれて現地集合になったのはコイツのせいである。

「クソガキお前…」
「あ、そういや俺のあげた服着てくれてんのー?やっぱ何着ても似合うんだなぁ」
「らんちゃも三つ編みきれい!!!」
「そうかぁ?嬉しいなぁ」
「人の話を聞いてくれ…」

どうやら兄貴は本当にちっちゃいこのクソガキが気に入ってるらしい、しかも重症なほどに。まぁ多分いつかまた飽きるんだろうなと特に気にするわけもなく3人で歩く。コイツを見た時に兄貴が「うわぁー、この感じの目つき、あん時の竜胆だよ。うぜー」とか言ってたっけ、いつの俺だよ。

 今日はなんでまた銀座になんて…と兄貴に聞くと、子供服を買いに来たと言う。

「はぁ?!またコイツに金かけんのかよ」
「いい服見つけたんだわ、使わねぇ金より使う金の方がいいだろ」
「俺だって服かいてぇよ」
「いつでも買ってやっから」

 兄貴がそういうと渋々承諾してしまったが、わざわざ銀座にまできて買うものなのかと思っていた。別に血の繋がった妹でもねぇやつの面倒なんて見ててもなとここ3週間ずっと悩んでいた。

「はぁ、出所したすぐ後に戻りてぇよ」
「あー?なんか言ったか?竜胆」
「なんでもねぇー!!!」


2人の後を俺は追った。





▽▲▽



「なんなんだよたく…」

東京鑑別所から出所した俺は兄貴と一緒に自宅へと戻っていった。港区六本木、俺達【灰谷兄弟】と呼ばれる不良のテリトリーのようなものだった。辺りも薄暗く、少しライトが照らされる街並みの中俺はその中に目立つ暗い裏道を見つけた。高層ビルが連なって並ぶこの周辺に人1人通る薄暗い道は少ない、ラブホ街くらいだろうそんな場所が見あたるのは。そんなこと考えながらフラフラとそっちの方へ足を運ぶ。

「何してんだ竜胆?帰んぞ」
「いや、なんか…こんな道あったかなって」

兄貴に呼ばれてもその足が止まることはなく俺はその薄暗い裏路地へと足を進めた。
 やはり裏路地なだけあって静かで排気ガスも凄く、とても生臭い……と言うよりかは血生臭かった。人の血の匂いには慣れてるしさほど気にはしてない、誰かが殴り合いにでもなったのだろう。俺はそのままもっと奥に進んだ。
 多分本能的なものなのだと感じた、よくゲームや漫画で見るここまで進みなさいよと言うガイドのような、それに従って進むように俺も暗闇の中へ入っていく。
奥へ奥へと進むうちに俺は地べたに座る小さなガキを見つけた。小さくてボロボロで、ここ港区にはあまりにも不釣り合いな、言ってしまえばボロ雑巾のような、そんなガキ。

「オイ、お前…何してんだこんなとこで」

髪の毛も、枝毛がすごくボロボロで、伸び過ぎた前髪で顔がよく見えない。服も雑巾みたいで汚らしい。

「こんな薄暗いとこで何してんだよ、早く帰んぞ」
「にいちゃんこいつ…」

俺が指を刺すと兄貴もガキに気づいたらしく、汚ねぇなと言った。

「なに?お前ロリコンにでも「ちっげぇーよ!」ぁ?」
「こんなとこに捨てられててもだろ」
「お前にそんな情があったのか」
「逆に何も感じてない兄貴が怖えよ」

話を聞かずに汚いガキに近づく兄貴。そのままヒョイっと抱き上げ、前髪を左右に分けた。

「へぇー、お前の顔ムカつくなぁ。竜胆見てぇ」
「はぁ?!」

そのまま抱いて兄貴は裏路地を出た。兄貴の抱き抱えるそれはあまりにも小さくて細かった。
 自宅に着くなり兄貴と俺はそいつを風呂に入れ綺麗になるまで大量の泡で洗った。兄貴は途中で飽きたと言って風呂から出ていくし、俺は後の始末をしなきゃいけないしでだいぶ時間がかかった。ごわついた髪は綺麗なストレートに黒髪よりかは少し明るい色だった。顔もハッキリとし、目の大きな可愛らしい女の子が出てきた。

「竜胆終わったー?」
「おー、今拭いてそっち持ってく」

俺はガキの体を拭いて兄貴に渡した。

「おぉ、ちったぁ綺麗になったかぁ」
「…本当にコイツ持ってきて良かったのかよ」

兄貴はそのまま俺のトレーナーを着せていた。

「まッッッそれ!!俺のトレーナーッッッ!!!!」
「いいだろぉもう着ねぇんだから」
「気に入ってるやつは着るだろうがッッッ」
「あ"気に入ってたのこれ?まぁいいじゃん?」
「よくねぇよ」

逆らえるはずもなく俺のトレーナーをガキに着せかなりぶかぶかではあるがなんとか着ることができた。兄貴は明日にでも服を買いに行こうと言っていたが、なんでまたこんなガキを…と思っていた。かなり長くからあそこに座っていたのか、何をしてもあのガキは嫌がらず何をしても無反応だった。親はどうしてんのかとか、どこからきたのかを聞いてもわかっていない様子だった。

「お前……喋れないのか?」

話しかけてもやはり反応はない。俺は意思の疎通方法を探した。とりあえずガキの面倒なんて見たこともないので、携帯で調べる。
 長いこと携帯を見つめ20分兄貴に向こうは任せっきりなことに気づくとなにやらリビングが騒がしかった。フッと視界をソファにやると、兄貴とあのガキが楽しそうに遊んでいた。

「………は?」
「おい竜胆、コイツお前よりおもしれぇかも」
「んふふーはーあははッ」

俺の悩みは吹っ飛んだ。どうやら普通に話せるらしい。わかったわかった、俺が馬鹿だったわ。とりあえず落ち着け、なんだ?なんだあの兄貴。
まずそこからなんだわ、なんなのあの兄貴。ちょっと…というよりかなり楽しそうだし、かなり前にノしたあの不良連中とヤってる以上に顔キマってっけど殺したりしないよな?っていうのが一つ。それともう一つ、あのガキは喋れるのか?だ。

「おい兄貴、そいつ喋れんの?」
「みりゃわかんだろ、喋れる喋れる。あー、お前何歳って言ったっけ?」

兄貴がそういうとあのガキは変な指の曲げ方をして2と指した。

「だそうだ」
「出そうだじゃねーよ、なんでそんな仲良くなってんだよ!!」
「仲良くなるの大事だもんなぁー?」
「なぁー!!!」




▽▲▽





…………が始まり。3週間前の出来事である。後はもう気づいたら家族みたいに当たり前に家にいた。俺にだけなんかあまり懐いてないが。

2人は呑気に買い物を楽しんでいる。特に兄貴、子供用の服を見にきたとは言っていたが、俺の腕には、DiorやらGUCCI、Isabel Garreton、BURBERRY…下手すりゃとんでもねぇ値段の服と靴をぶら下げていた。
 俺はそのまま荷物持ちとして家に帰ることになった。

「はー、いい買い物した」
「した!!!」

 自宅に着くなりソファに座る兄貴を真似するようにガキが座った。俺のが疲れてるっつうの、とりあえず荷物を寄せて俺もリビングへ入った。

「おいクソガキ、もっと兄貴の方寄れよ、押し潰すぞおら」
「やっ!ここらんちゃの!」
「だからそっちよれって」

抵抗するガキの力もはや抵抗というよりただの駄々、というか力の差があるから抵抗にすらならなかった。俺はそれを押し込みソファでくつろぐ。

「そういや、結局コイツ名前なんなんだ?」
「え"兄貴も知らねーのかよ」
「知らねぇよ。教えてくんねーもん」

と、兄貴から言われるもんだから俺はこのガキに名前を聞いた。初めの頃は何度か名前を聞いたが、毎回分からないと言って呼んだことがなかった。そろそろガキだのお前だので呼ぶのはいいのではないかと感じてたこの頃。本当にわからないのだろうか。目の前にある小さな子供は俯きながら「ない」とそう言った。置いて行かれたのか捨てられたのか、身元もわからない子供を家に入れたものの、ないとなると呼び方に困る。

「別にくさがきでもいいよ?」
「クソガキな、いやよくはないだろ」
「なまえってひつよー?」
「大事なもんだな」

うーんと悩んでいると兄貴が急に「俺らで決めようぜー」と言った。え"俺らが決めんの、と最初は思ったものの気づいたらノリノリで考え始めていた。流石男2人が考えるだけあって、採用されないような名前が上がってきた。訳がわからなくなってきてお互いに感じ1文字ずつ出して決めることにした。
俺が出したのが【瑠】兄貴の出したのが【唯】だった。

「瑠と唯かよぉ、どうすんだよ兄貴」
「いいんじゃね?唯(ユイ)で」
「俺も考えたじゃん!俺の必殺の瑠」
「わけわかんねぇー」

またまた頭を抱えると隣で小さく「くっちゅければ?」と提案された。くっつける?【瑠】と【唯】でどうやってくっつけんだよ。

「お、あったまいいなぁ。るーいちゃん」
「るい?」
「おん、コイツの名前。【瑠】と【唯】で【瑠唯】だろ」

そう兄貴はペンを走らせ瑠唯と書いた。

「これで瑠唯、意義あっかー?お姫様」

本人の顔を覗きながら兄貴が聞いた。名前をもらった本人は顔に出るくらいには嬉しかったようだ。自分の名前を何度も何度も唱えた。

「るいちー!、るいち!」
「瑠唯な」

何度もそう名前を呼ぶもんだから付けた俺も嬉しくなった。

「よし、名前も決まったし今日はどっか食い行くか」
「え"、今帰ってきたのに?」
「なんだよ文句あんのかよ」
「べつにねーけどさ…」
「やったー!!!おいちーごはん!!!!たのひみ」
「そうかぁ、楽しみだなぁ」

瑠唯は飛び跳ね新しい服を引っ張り出してきた。今日はこれを着るだの新しい靴を出すだの駄々は相変わらず減らない飛んだおてんば野郎だが、今日は、今日だけはよしとするか。




兄貴の行くぞが出発の合図。



また置いて行かれないように





俺たちは飯に行く準備を始めた。





END

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