「打ち明け」
「ぐがあああ…。」
「サイタマさん寝ちゃいましたね…。」
いつもなら居間のテーブルを退かして布団を並べるのに、今日に限ってサイタマさんは布団を敷く前に酔って眠ってしまった。
テーブルに突っ伏して気持ち良さそうに寝ている最強の男を、わざわざ起こして移動させるのも気が引けた。
とりあえず空いている隙間に布団を敷き、わたしはそこで寝ることになった。
ジェノスさんがサイタマさんに掛け布団をかける。
「ジェノスさんはどうするんですか?」
「布団が無くても支障はない。心配するな。」
そうだった。
ジェノスさんにとっての睡眠は、『機能の停止』らしい。
流石に24時間フル稼働というのは、可能だけど多少体に負担がかかるらしい。
わたしは寝転がって布団をかぶった。
だけど目が冴えて眠れない。
サイタマさんのいびきと、控えめな機械音が聞こえる。
わたしは気休めに何度も寝返りを打つ。
「眠れないのか、ソヨカゼ。」
「!」
静かな室内に、ジェノスさんの声が拡散する。
「…へへ、なんか目が冴えちゃって…。」
「…それなら、俺の話を聞いてくれるか?」
ジェノスさんの…話?
なんだか珍しな。
わたしはもう一度寝返りをうち、小さくはい、と答えた。
「俺の、サイタマ先生と出会う前のこと…それとサイボーグになる前の話だ。…子守唄にでもなればいいがな。」
それから語られたのは、ジェノスさんの悲惨な過去、そしてサイタマさんとの衝撃的な出会いからヒーローになるまでの話だった。
そういえば、サイボーグというのは元々は人間。
ジェノスさんにも家族がいて、家があり、普通に生活していたんだ。
それが、狂ったサイボーグによって壊されてしまった。
皮肉なことに、死にかけた自分もサイボーグになるなんて。
わたしの胸はズキンと痛んだ。
「どうだ、眠くなってきたか?」
ジェノスさんの声は落ち着いている。
「…あの、ジェノスさん。どうして突然その話を…。」
わたしは素朴な疑問をぶつける。
ジェノスさんはしばらく黙り込んだ。
「…分からない。だがソヨカゼには話しておいた方がいいような気がしたんだ。」
ちらりと布団の影からジェノスさんを見た。
口角が少し上がっている。
「そろそろ寝ろソヨカゼ。明日は家の周りを掃除するぞ。」
「…あ、そ、そうですね。」
サイタマさんの家は無事だったとはいえ、壊れた別の建物の瓦礫や飛んできた砂埃などで家の周囲は大分汚れていた。
明日も忙しくなるな。
「おやすみなさい、ジェノスさん。」
「…ああ、おやすみソヨカゼ。」
やがて、サイタマさんのイビキの音だけが室内に残った。
翌日。
「あだだだ…体痛ぇ…おいジェノス、ソヨカゼ!なんで起こしてくれなかったんだよー!」
「「すみません…。」」
隕石接近編 終
続く
公開:2017/02/24/金
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