「結果」


「ヒーローやめろ!!」

「や・め・ろ!」「や・め・ろ!」
「や・め・ろ!」「や・め・ろ!」


「な…なにこれ!?」

家に向かって歩いていると、奇妙な合唱が聞こえてきた。
ヒーローという単語に反応して近づくと、なんと輪の中心にはサイタマさんがいた。

「なんなの!?」

わたしは近くにいた傍観者2人組に声をかける。

「あの、これはどういうことなんですか!?」

知らない人にいきなりすごい剣幕で話しかけられたからか、その人達は少しだけたじろいだ。

「いや…Z市をこんなにした張本人がいたんだよ。ほら…そこに。」

恐る恐る指をさす先には、やはりサイタマさん。

「あのインチキヒーローをタンクトップタイガーとタンクトップブラックホールが懲らしめてる所だよ。」


こらしめる?


「まあこの町をこんな滅茶苦茶にしたんだもんな。」
「ああ。当然の報いなんじゃね?」
「別に俺らこの町の住民じゃないけ、」



「サイタマさんはこの町のヒーローです!!」



わたしはそう叫んでその人達から離れた。


「…サイタマ?なにそれ?」
「アイツ?」
「さあ?」



「消・え・ろ!」「消・え・ろ!」
「消・え・ろ!」「消・え・ろ!」

周囲のやめろコールは消えろコールに変わった。

わたしは完全に切れていた。
こんな気持ちは久しぶりだった。

今まで散々助けてくれた命の恩人が、社会的な死という危機に晒されている。
何か出来るとは思わなかった。
それでも主張したかった。


サイタマさんはインチキなんかじゃない。


わたしは瓦礫の山を上り、顔を覗かせる。

そして降りようとした時。


「ヒーローなら正々堂々オレ達と勝負しろ!」


反射的に、ぴたりと動きが止まる。

…え?



「俺たち兄弟がヒーローとして歪んだお前を粛清してやる!ガオオオッ!」


吹き飛ぶタンクトップタイガー。


「潰す!」

サイタマさんがタンクトップブラックホールの手を握る。

「あいいいッてえええええええ!」


当然の結果だった。

わたしの怒りはふっつりとなくなっていた。


「嘘ついてすいませんでしたぁああああ、」
「いや、嘘じゃねえ。」

「…サイタマさん?」


「隕石をぶっ壊したのは俺だ!文句がありゃ言ってみろ、聞いてやる!」


わたしは瓦礫の上に立ち尽くした。


サイタマさん…?

「サイタマさん…どうして…。」


「俺はテメェらの評価が欲しくてヒーローやってんじゃねえからな!俺がやりたくてやってんだ!!てめぇらの被害なんて知るかッバカども!恨みたきゃ勝手に憎め!!このハゲ!!」


視界が霞んだ。
涙が落ちた。
心臓が速く脈打って苦しい。


どうして、あなたは。




「いいから解散しろバーカ!!…あれ?」

サイタマさんは後ろに立ったわたしに気付く。
振り向いた顔は、いつも通りの顔だった。

「おうソヨカゼ、どうしたこんなとこで……おいなんで泣いてんだ!?」
「うっ…えぐっ…なんでもないですううう!」
「いやどー見てもなんでもあるだろ…。てかなんでタケノコ持ってんだ…?まあいいや。ほら帰るぞ!」
「ひっく……はい…。」




瓦礫の上で、一部始終を見ていた2人組が呆然と佇んでいた。


「…なんかさ。」
「…おう。」
「かっけーじゃん、インチキヒーロー。」
「それな。」



続く

公開:2017/02/24/金


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