君がいること



すずめが離れていく。

遠くへ離れていく。

届かないところへ。



ーー待って。


どんなに足掻いてもこの声は届かない。
どんなに伸ばしてもこの手が触れることはない。


ーーすずめ…。


愛想尽かしたのか?
ウチが、機械ばかりで構ってやれなかったから?


ーー嫌だ。



アンタがいないと、ウチは……。



ーー行くな。



ーースパナ、さようなら。




「っ!」

顔を上げると、スリープ状態のパソコン。
頭を乗せていた腕が痺れている。
額や背中に嫌な汗をたくさんかいていた。

「……すずめ?」

おかしい。
隣に座っていたすずめがいない。
さっきの夢のせいもあって、やけに不安になる。

『見てていい?』

と言って笑うすずめが脳裏を掠めた。

「……すずめ、どこだ?」

立ち上がって辺りを見回す。
改めて見るとかなり物が散乱していて驚く。
動いているものがない。
滅多にここを出ないすずめが、どうして今に限っていないんだ…。

「すずめ、……すずめ」

不安でたまらない。
もしかしたら本当にどこか遠くへ行ってしまったのかもしれない。

ああ、どうしてもっと構ってやらなかったんだ。
あんなに近くにいたのに、心は遠くにあった。
すずめは近づいてきてくれたのに、ウチは遠ざけていた。

「すずめ………ウチは…あんたが居なきゃ……」
「スパナ!起きたんだ」

恋しい声が聞こえて振り返ると、ドアの所に毛布を持ったすずめが立っていた。

「毛布が見つからなかったから借りてきたんだけど……無駄だったみたいだね」

苦笑するすずめが愛しくてたまらない。
ウチの体は、無意識に動いていた。

「……っすずめ」
「え、わっ、どうしたのスパナ!?」

思わず駆け寄って小さな体を抱き締めた。
どさ、と足元に毛布が落ちる。
じんわりと熱が伝わってきて、ふわりといい匂いが鼻を掠める。

……ああ、すずめはここに居る。


「何かあったの?嫌な夢でも見た?」
「……すずめはどこへもいかない?」
「え?」

ウチを見上げて首を傾げるすずめ。
数秒してから、優しく微笑んだ。

「行かないよ」

細い腕が、ウチの背中に回される。

「ウチ、すずめがいなきゃダメみたいだ」
「ふふ、私もスパナがいなきゃやってけないよ」

ぎゅ、と抱き締める力を強めると、同じようにすずめも力を強めてきた。

「すずめ、ウチとずっと一緒にいて」
「!それプロポーズ?」
「ん…わかんない。けど、それでもいい」

真っ赤になる頬を包んでキスを落とすと、すずめは嬉しそうに笑った。
思い切り抱きついてきたすずめを受け止めて、頭を撫でた。
腕の中で「けっこんだ!」と繰り返すすずめ。
あ、そうか。
ウチ、プロポーズしたのか。
それなら、指輪をプレゼントしたりウェディングドレス選んだり式挙げたり忙しくなるな。
正一に手伝ってもらわないと。


「しあわせー」
「そうか。すずめが幸せなら、ウチも幸せだ」
「ふふっ!スパナ大好き!」
「ウチもだ、すずめ」




君がいることで、なんだってできる。
満たされる。幸せになれる。


だから、ずっとずっと、一緒に居よう。


fin.


公開:2016/03/06/日


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