睦言
研磨と初めてセックスした。
なんとなくよくわからなかったけど、満たされる感じがした。
愛されてるんだなぁと思えたし、愛してるなぁと改めて思えた。
幸せだと思った。
もっともっと研磨を好きになった。
「研磨、人間って変な形してるよね。」
「…なにそれ。」
心地よい疲労感の中、研磨に抱きつく形で布団の中に入っている。
研磨の声は、すごく眠そう。
「だってさ、完全にくっつこうとしても、どうしても隙間が出来ちゃう。」
さっきから、ずっとモゾモゾしているのは、そのせい。
どの体勢なら、一番研磨と密着できるかなぁ、と、模索していた。
「いっそ空気になりたい。」
「え?」
「研磨を取り巻く、空気になりたい。」
「…また変なこと言って。」
「本気だよ?空気なら、研磨と余すことなくくっついていられるでしょ。あぁ、羨ましいなぁ、空気。」
「…。」
仰向けの研磨は、黒目だけチロリとわたしを見た。
少し馬鹿にしたような、少し寂しそうな顔をしている。
「おれ、別に空気のこと好きじゃないし。」
「好き嫌い以前に、生きるには必要不可欠でしょ?」
研磨は、口を尖らせた。
それから、少し口をすぼませて開く。
「それでもおれの心は、空気にはやれない。」
「おぉ…。」
「日和じゃなきゃやれない。」
「え!」
「だから、空気になんてならないで。居なくならないで。日和が近くにいたとしても、見えなかったら…不安。」
体ごと、わたしに向けて、いつもと変わらない顔で言う研磨。
ああ、愛しいなあ。
研磨の腕は、案外逞しい。
そりゃあ、鍛えてる他の男の子と比べたら、劣るかもしれないけど。
それでも、わたしを掴んで離さないには、じゅうぶん事足りてる。
わたしが安心するには、じゅうぶん事足りてる。
「やっぱり、このままがいいな。」
「うん。これ以上なんてないよ。」
「だね。」
「ん。」
「あったかいしね。」
「うん。」
「ぬくぬくするし。」
「そう。」
「…包まれてる感があるし。」
「…眠くないの?」
「寝たくないの。」
「なんで?」
「研磨がわかんなくなっちゃう。」
「…夢の中で会えるとか思ってれば?」
「ああ、なるほどね。」
ぴったりくっついて眠ったら、同じ夢を見られるだろうか。夢の中で、会えるだろうか。
じゃあ、もっともっとくっつこう。
真っ暗闇の中で、溶け合うようにくっつこう。
「おやすみ。」
「おやすみ。」
fin.
○あとがき
タイトル「睦言」は、 むつごと と読みまして、いわゆるピロートークのこと。らしい。
今回このタイトルを決めるにあたって、初めて知った単語でした。
むつごと、可愛いですネ!
公開:2016/09/21/水
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