novel2012 | ナノ


すべてが無力になる瞬間


「あ、木吉だー」
「お、紫原か。どうした?」
「ううん、なんとなく姿見つけたから声かけただけ」
 うっかり弁当を持ってくるのを忘れたのでいつも一緒に昼食を取っているメンバーに先に食いかけといてくれ、と言って購買に向かったら軽く2メートルを超えている長身の後輩に出会った。
 初対面時、たまたま持っていた飴を上げたらそれ以降、不思議なくらいに懐かれているようだ。
 まあ、後輩に好かれるのは嬉しいことだが。
 二年生というのもいいものだ、なんて感慨深く考えていると。
 だらん、と背中に重みを感じる。
 振り返るとそこにはやる気なさげな、だけど何処か嬉しそうな表情を浮かべる紫原の姿が。
 俺より背高いのに、やっぱり年下でなんだか弟みたいだなあ、なんてほのぼの思う。
「どうした?」
「んー、こうしたかっただけー」
 中々に背中にかかる重みは大きいものの、楽しそうなのでよしとしよう。
 これも先輩のつとめだ。

 なんて思いながらしばし紫原と会話していると目の前から物凄く不満全快のオーラで近寄ってくる見覚えのある人物。
 一緒に食事をいつも取っているメンバーの一人だ。
 明らかに不機嫌、周りの生徒が思わず道を開けてしまう程。
 まるで女王さまがやってきた時の民衆の反応みたいだなー、なんて笑っている場合ではなかった。
 その女王さまはやってくるなりそうそう俺の頭をぺしん、と叩いた。
 うー痛い、ズキズキする、容赦なしに叩きやがったな。
「花宮、いたい」
「遅いんだよ、木吉! バカ! 飯食わずに待ってた俺の身になれ!」
「へ、あ、すまん。わざわざ待っててくれたのか?」
「別にお前のためじゃねーけど、一人で食うのは寂しいだろうと思ってただけだバァカ! 何買い物もせず無駄話してんだよ」
 花宮の言葉に紫原がぴくり、と反応する。
 そしてゆらりと俺から離れ花宮と対峙する。
 ハブとマングース、というには少し身長差がありすぎるような気もするがまあ、そんな感じでにらみ合う二人。
「無駄話って何? っていうかーアンタ誰、邪魔」
「邪魔なのはお前だよ、さっさと木吉戻ってこねーと飯食えねえんだよ」
「は? 先に食べたらいいじゃん。それにアンタ、その言葉からしたら木吉としょっちゅう行動してるわけでしょ? ちょっとくらい我慢したら? 本当に俺より先輩なわけ?」
「ハァ? 年上に対する言葉使いがなってねーよ、っていうかさっさとその木吉の手を離せ!」
「いやだしー、あんたこそ何気に木吉の手掴んでるじゃん」
 ……おいおい参ったな、この状況。
 明らかに周りの生徒は可笑しな物を見るような眼をしているし、なにより。
 なんで俺はこんな境遇に立たされているんだ?
 まるで普段の日向が紫原になったみたいな感じだがここまで険悪では……ないような。

 そんな俺に救いの手が伸べられたのは、約十分後。
 十分間、小学生レベルの言い争いを続ける二人。
 思わず笑ってしまいそうになるがそんなことをしたら俺がとばっちりをくらいそうなので我慢。
 似たもの同士、に見えなくもないがな……この二人は。
 十分後、たまたま行動の前を通りかかった氷室先生によって、この騒ぎは幕を閉じる。
「花宮君、それ以上続けたらすぐに席替えするけどいいかな?」
「……スミマセン」
「アツシも。部活でお菓子禁止令を出すよ?」
「それは……困るよ室ちん」
 二人はしぶしぶと俺の手を離す。
 それを見て氷室先生はいい子だね、と言って職員室の方向へと向かう。
 そして紫原はじゃーね、木吉、と言い残してふらふらーと去っていく。
 残されたのは、俺と花宮。
「さっさと戻るぞ! あのメガネも待ってるんだから早くこい!」
「マジで!? すまん、すぐ買ってくるわ!」

 この騒ぎがしばらくの間一部の女子で話題になっていたことなど、リコのみぞ知る。





 大変お待たせしました!
 七詩さまリクエストでSuger!の設定で紫原VS花宮による木吉争奪戦です。
 現在リメイク中なので、初見の方にはわかりにくいかもしれませんがSuger!の中でこの二人+日向は木吉に恋心を抱いている設定がありまして。
 その設定で書かせていただきました。
 こんな感じでSuger!の設定で小説をかけてとても楽しかったです。
 どっちも子供な、そんな不毛な言い合いを楽しんでいただけたら。

 以下コメントレス。
 更新再開祝いコメントありがとうございます!
 はい、これからも七詩さまやみなさまの応援を励みに無理せず頑張っていきたいと思います。
 とても楽しいお話をリクエストしていただきありがとうございました!
 そして、企画への参加ありがとうございました!


 お持ち帰り、返品は七詩さまのみ受付です。
 ご閲覧ありがとうございました!

 2012.10.21 弥深(title by hmr)

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