俺にはお前が必要だ
やっべーやっべー。
いや笑いごとじゃないんだけど。
今日は土曜日、学校は休みでも練習は休みなわけがなく。
迎えに真ちゃんの家まで行ったのは良いけど、真ちゃんが珍しくドタバタしてたから先に行っちまうかなんて思って『待つのだよ!』という真ちゃんの声を無視して鼻唄歌いながら学校へ向かっていたら。
ちょっと柄の悪そうなお兄さん達とぶつかってしまい。
それだけならまだしも柄の悪そうなお兄さんの飲んでいたジュースらしきものがお仲間さんの衣類に染みを作ってしまうという……そんな事態。
え、あの、本当にすみませんと謝ったものの、謝ったら警察はいらないとの、まあごもっともなんだけど。
胸倉つかまれて路地裏に連れ込まれて、ドンっと壁に投げられた。
痛ぇ……はは、まじ笑えないわ。
いくらなんでもこの状況はやばいっしょ、でもどうしようもねえよな。
前を見てなかった俺が悪いわけだし、さ。
「おいこら、ガキ! この服はなあ、ブランド物なんだぞ!」
「弁償できんのかァ!? 舐めてるんじゃねーぞ!!」
本格的に冗談めいて笑えなくなった。
相手は三人、喧嘩慣れしてるって程ではないけどなんとかできなくもない人数。
だけど、なあ。
バスケ部員がこんな所で不祥事起こしたら……。
真ちゃんや、大坪さん、宮地さん、木村さん、監督、部員の人達みんなに……迷惑かかっちまうもんな。
ガンっと頭に強い衝撃が走る。
嗚呼、殴られたのか、痛ぇなあ……、でもやり返せねえ。
「どうしたァ? やり返してこいよ!」
「できねーっすよ、俺スポーツマンなんで」
「ハハハ! いい子ちゃんだねえ、じゃあ黙って殴られとけ!」
容赦のない攻撃、半端のない威力。
体中が痛い、だけど、せめて、腕だけは。
真ちゃんに、パスを出す……腕だけはやられるわけにはいかない。
けど、流石にここまでダメージくらうと意識が飛びそうだ。
そうなったらどうなるか……考えたくもねーなあ。
「なあ、コイツ腕だけは庇ってるぜ?」
「……へえ、ずいぶん腕が大切なようだなぁ」
……そんなことに気付かなくてもいいっつーの。
嗚呼もう、絶体絶命ってこういうこと?
俺も普段から真ちゃんみたいに人事尽くしてたらよかったのかなあ……。
半ばあきらめかけて腕に向かってくる拳に目を瞑った。
いつまでたっても痛みは感じない。
殴られた感触もない。
不思議に思って目を開けると左腕で攻撃を受け止めている真ちゃんの姿が。
「真ちゃん……なんでここに」
しかも、左腕って、お前……。
真ちゃんのバスケにおける、一番大切な、左腕で、なんで?
「誰だお前は!」
「貴様らに名乗るような名前はあいにく持ち合わせていないのだよ。今すぐにここから去れ」
「ふざけんなァ!」
左側から別の仲間が殴りかかってきている、ちょ、さすがに、卑怯だろ。
「真ちゃん!」
「うるさいのだよ……高尾」
小さく俺に微笑むと真ちゃんは左腕を振り払い、その勢いで仲間同士を衝突させた。
お互いに頭から行ったからだろうか、二人は気絶して動かなくなる。
さすがにそんな状況だと、残る一人は慌てるわけで。
「あとはお前だけか……」
真ちゃんの目が血走っている、嗚呼、本気で怒ってる。
……なあ、それって俺のため?
「くそっ!」
残る一人は倒れている二人を置いて逃げ出した。
真ちゃんは右手でボロボロになっている俺に手を差し伸べる。
「さっさと立ち上がるのだよ」
「少しくらい労われよなー……」
「自業自得なのだろう、バカめ」
「にゃおう!?」
立ち上がった俺の手を引きながら真ちゃんは路地からでて、自宅の方向、即ち学校とは反対側に歩き出した。
え、何処行くの、ねえ、真ちゃん。
「真ちゃん部活……」
「黙っていろ」
「ハイ」
余りにも鋭い目でそう言われたもんだから、俺は頷くことしかできなかった。
着いた所は、真ちゃんの家。
そのまま俺はリビングに連れられてソファーに座らされる。
「真ちゃん、大丈夫なの? 左腕」
「フン……少々痛むくらいだ。影響はない」
「っておい! 部活は?」
「ワガママ六回分使ってちゃんと連絡入れたのだよ」
「六回!? 一日三回じゃねーの?」
「明日は一切ワガママを言わない条件でだ」
「それでも、三回で休めるんじゃ……」
「バカか! お前はその体で部活に出るというのか!」
その叫びは、激しく、そして絞り出すかのような声で。
俺は気づく。
真ちゃんは、自分のワガママを減らしてまで俺のこと考えてくれてたんだ。
ははは、やべえなあ、不謹慎なのに嬉しい。
「今日、お前の星座が最下位だったのだよ。そのためのラッキーアイテムを探していたらお前が……あんな目にあってしまっていた」
「いや、え、あの、その……あんがと、真ちゃん」
ぎゅう、と真ちゃんが俺を抱きしめる。
その力は、とても強くて、でも暖かくて。
真ちゃんの肩が震えていることに気付く。
「バカなのだよ、お前は……」
「スミマセン」
「お前が怪我をしたら、誰が俺にパスを出す!? 唸るようなパスを出してくれるんだろう? 本当にバカなのだよ!」
「……真ちゃんもバカだよ、左腕で攻撃を受け止めるとか……」
「体が動いていたのだから仕方がないだろう。だが、よかったのだよ、間に合って」
フッと、優しい目をして真ちゃんが笑うから。
つられて俺も思わず笑ったら、真ちゃんはムスっとする。
「フン、今日は一日安静にするのだよ。……あまり心配させるな」
「サンキュ、愛しの真ちゃん!」
「……やっぱりいますぐ帰れ」
「え」
ツンデレな俺の彼氏様が、俺のために一生懸命になってくれている。
そのことを知れただけで、不謹慎だけど今回の出来事に少しだけ感謝。
やっぱりさ、俺真ちゃんが好きだわ。
変人ツンデレ電波なエース様で、俺の彼氏様。
お後がよろしいようで、なのだよ! なーんてな。
大変お待たせしました!
ホタルさまリクエスト緑高でシリアス→甘/恋人設定です。
緑高を書いたのは実は初めてなのでキャライメージが全然違うかもしれません。
今後も精進します……ですが、この二人はやはり好きな組み合わせです。
左腕で真ちゃんが高尾をかばったのは、それ程の愛情、とのことだと思います。
今回もキャラが勝手に動いてくださったので執筆した私も真相はわかりません。
以下コメントレス。
うちの木花が好きだなんてありがとうございます!
最上級の褒め言葉でとても嬉しいです。
これからも頑張っていきますね!
応援の言葉、フリリク企画参加ありがとうございました!
お持ち帰り、返品はホタルさまのみ受付です。
ご閲覧ありがとうございました!
2012.10.20 弥深(title by DOGOD69)