手をつないで走ろう
待ち合わせ場所の公園の噴水前ベンチにて。
一人普段から持ち歩いている文庫本を開いて時間を潰していた。
相手は未だ来ない、いや、それもそのはず。
俺がこの場所に着いたのは待ち合わせ時間より30分は前のことだったからだ。
「花宮! 悪い、待たせたか?」
その20分後、つまり待ち合わせ10分前に相手はやってきた。
決して俺が楽しみにして早く来たわけじゃないからな、たまたま早く目が覚めて暇だったから早めに出ただけであって。
パタンと本を閉じてカバンに直し、視線を相手に向ける。
早く会いたかったとかそんなこと思ってないんだからなバァカ!
「べ、別に! まだ待ち合わせ10分前だし遅れてもねえよ」
「そうか? ならよかった、それじゃあさっそく行こうぜ!」
「あ、ちょ、おい手! 手!」
ニコッと笑って待ち合わせ相手、木吉鉄平は俺の右手を取る。
そしてそのまま引っ張られる形で俺は立ち上がる。
恥ずかしいだろ、ちょ、お前は何も思わないのか!
そんな気持ちが通じたのかにへら、と木吉は笑った。
「いいだろ! 久しぶりなんだし!」
「っ……! バァカ!」
どうしても、木吉の笑顔には勝てなくて。
しぶしぶ、本当にしぶしぶ、手を握り返した。
あー、本当に大きい手だな、安心感があるよな……。
「で、何処行くんだったっけ!?」
「お前がデパートでやってる和菓子フェアに行きたいって言ったの忘れたのかよ!」
「おお、そうだった! よし、じゃあデパートに行こうぜ!」
「バァカ、方向逆! そっちじゃねえよ!」
なんてしみじみした俺がバカだった。
そうだ、コイツの天然さには計算もなにも通じないんだ。
でも、そんなところに惹かれたのかもしれない。
俺の計算が全く通じなかった相手は、初めてだったから。
認めたくないけど、こういうバカなやりとりも嫌いではない。
人通りの多い道に出ると手を繋いでいる俺達を異端なものをみるような眼で見る人がちらほら。
だけど、正直恥ずかしいとかもう何も思わない。
最初は思っていたけれど、慣れてしまっている自分が怖い。
いつも木吉のペースに巻き込まれて、結局勝てずじまい。
今日も最初は抵抗したものの、無意味なことはわかってはいた。
……どんな目で見られようと慣れてる、昔から異端な目で見られていたのだから。
なんて考えていると少し強く手を握られた気がした。
嗚呼、もう本当に木吉には勝てないななんて思って思わず笑みを零した。
目的地はデパートなはずだった、のだが。
木吉といてすんなり目的地に着いた記憶なんて一切ないわけで。
今回もやはりあちらこちらのウインドウに飾られているものを見ては足を止めていた。
まあ、俺も今回は目に入った店とかあったし文句は言えないが。
最初はうざったくて仕方なかった木吉の笑顔も、今では、言ってやらないけど、結構嫌いじゃない。
「なあ、花宮! あのぬいぐるみなんかすっげえよくないか!?」
「ん、あー……お前に似て間抜けな顔してるな」
「そうか? いやー照れるな」
「褒めてねえよバァカ」
「あ、あれは花宮みたいだぞ! あのぬいぐるみ!」
「なんで俺がピンクのうさぎみたいなんだよ!」
少しずつ、色々な感情が生まれて。
くすぐったくて、それでいて、幸せで。
そんな風に思えるようになったのは間違いなく木吉のおかげだから。
絶対にもう離してなんかやらない。
ウインドウショッピングもどきは続く。
が、ふと携帯の時計を見るともうすぐフェア開催の時間が近づいていた。
「おい、フェアもうすぐ始まるぞ。このままだと遅れるけど?」
「それは困る! 走るぞ花宮!」
「言う前に走ってるじゃねえかよ!」
街中を、駆け抜ける、そんな道行く人々にご迷惑な行為だけど。
こんな風に駆け抜けるのもありかもしれない、なんて。
いつの間にか毒されている自分に、バァカとつぶやいた。
大変お待たせしました!
つつみさまリクエスト、木花で街中デートです。
等身大の高校生、甘い青春してる雰囲気を目指しました。
和菓子フェアで木吉がどら焼きに目を輝かせている中なんだかんだ一緒に試食してこれうまいとか花宮が気に入ってたらなと思います。
街中を駆け抜ける行為は二次創作の中なので許されます、なんて。
コメントレスはサイトにて直接伺わせていただきましたので割愛。
お持ち帰り、返品はつつみさまのみ受付です。
ご閲覧ありがとうございました!
2012.10.31 弥深(title by 確かに恋だった)